【対談】コンプレックスを強みに変えて強い者を倒す楽しさ 競輪・後閑信一×ボクシング・八重樫東

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 プロボクシング元3階級王者・八重樫東選手(35歳)と、競輪でG1レース優勝3度の後閑信一氏(48歳)の対談が実現した。昨年引退した後閑氏は「ボス」と呼ばれるワイルドな風貌と対照的に、理論的でユニークな競輪解説で人気を集めている。

 練習の一環でボクシングを取り入れたこともあり、八重樫選手と互いのこだわりを語り合って意気投合。長く現役を続ける2人の理論は、競技のジャンルを超えた若手へのメッセージにもつながった。

時速70kmで落車する恐怖、負けると次の試合が保証されない恐怖・・・


後閑:昨年まで競輪選手を27年やってきてトレーニング関連はすべてやってきたと思います。現役を続けるために、自分で何かを編み出すことばかり考えていました。竹馬に乗り、木に登り、車を押すといった原始的なこと。格闘技も好きで、ボクシングもやっていたんです。

八重樫:スパーリングもやったんですか? うれしいですね。ぼくはウエイトリフティングなどをやりましたが、他競技のいいところを自分の競技に落とし込む作業に最初は苦労しました。

後閑:地元群馬のジムに何年も通ってボクシングの厳しさを知り、競輪選手は恵まれていると気付きました。最下位でも賞金がつく。自分の役割ができれば、勝てなくてもお客さんに納得していただける部分があった。ただ、勝負師としては甘い。43歳になってからG1タイトルをとることができたのも、ストイックに勝ちにこだわるボクシングの精神を学んだおかげなんです。

八重樫:ボクシングは一発勝負。そこにかけていけばいい。競輪はすぐにまた次のレースがある。短いスパンでプレッシャーがかかるのは、ものすごく大変です。

後閑:現役のときは言えなかったんですけど、落車が恐怖でした。時速70キロで転倒してドクターヘリで運ばれて、命に関わることもあった。骨折は全身で30数カ所。レースにいくときは、家族の顔を見て、もしかしたらもう会えなくなると思って目に焼き付けました。

八重樫:ボクサーの恐怖は、負けること。打たれる怖さ、痛み、減量のつらさといったものは全くない。負ければ次の試合が保証されず、1円にもならない。年齢も年齢なので、1つの負けが大きいんです。ぼくも試合にいくときは、もしかしてのことを考えて部屋を片付けて、身辺整理をして、神棚に手を合わせる。そういう覚悟をつくって家を出ます。

コンプレックスを強みに変えて強い者を倒す楽しさ

後閑:自分のためだけなら走れない。お金をかけてくださっている方がいる。よかった、今日は無事だった。その繰り返しでした。競技を続けるために試行錯誤して、他の人より引き出しはあると思います。体の使い方、力の出し方は、なんでも一緒だと思うんです。

八重樫:体が小さいことが、幼少からのコンプレックスでした。ぼくみたいなのが足を使って、頭を使って、大きい者を逆転する勝負のおもしろさ。そういうのが好きなんです。

後閑:自分もコンプレックスの塊。体に対して腕が短くてバランスが悪い。逆にそこを生かそうと考えて。自転車で腕が短いのは、体幹までの距離が近いから力が逃げないんだと。八重樫さんのように体は小さいのに、強い競輪選手がいて、後ろについて練習を観察しました。穴を掘ってみたり、棒を持ってみたり、いろんな発想がある。自分は、大きい球をどう押して進ませるかしか考えていなかった。

八重樫:体の使い方ひとつで、力が大きくなったり小さくなったりする。同じ体重でも、それがわかっているかどうかで差がでます。

力を抜くと言う技術。上りではなく、下りの練習でスピード力がつく。

後閑:どんな競技もそうですけど、力を抜くことが大事。子供を抱っこして寝られちゃうと、脱力して重い。自転車でも力をぶつけて進むんじゃなくて、足を高い位置に引き上げてやれば、踏む力はいらない。体重の重さが、自転車の推進力に変わる。そこにみんな気付かない。わかってない人は、レースを離れると上り坂にいってしまう。遅筋を鍛えて、重たい筋肉をつける。きついことをやる達成感でしかない。本当は下りの練習をしないと、ダッシュ力はつかない。

八重樫:踏むんじゃなく、足を引き上げるのがポイントなんですね。

後閑:脱力を若い子に教えるとき、歩いてこいと言います。わざと足を引っかけるように出すと「危ない」ってなる。それだよ。転びそうなとき、とっさに足が出る。危機感を感じて、人間の体が勝手に動いて体重が乗るところ。いつも、つんのめった状態で、足を上に持っていく動作だけやればいいと教えています。それでも首をかしげる人には、ブランコで説明します。進むポイントより先に体を動かしてるでしょ。それだよと。

八重樫:力が抜けないと、重さが伝わらないんですよね。

後閑:3Dで体の動きがわかる携帯のアプリがあるんですが、足を上げるのは、ももじゃなく、背骨からおなかの筋肉、股関節を使うんです。いま思えば、20代の自分は何にもわかっていなかった。がむしゃらにペダルをこいで、強いだろと思ってました。いまの若い子たちにハンドルやシューズ、新しいことをなんでも試してみなよと言うと「もうやりました、いいです」で終わり。現役のときは、お前たちがいるからメシを食える、よしよしと思ってたけど、いまは伝えていかないといけないと思っています。

人の成功例のカッコいいところだけマネしてもダメ

八重樫:いまの子たちは頭でっかち。情報社会で知識はたくさんあるけど、「量」をやる練習が足りない。オーバーワークといわれるかもしれないけど、無駄な練習ってないんです。若いとき、はいつくばってやったことが、年をとったときに「質」となって出てくる。

後閑:人の成功例を調べて、かっこいいと思って、下積みなしで成功や結果を求めちゃう。専門知識だけあって、タイムは出る。速いけど、強くない。前にやってダメだったけど、いまの細胞(体の状態)で、いまの経験でやるから良くなることも、組みあわせ次第でたくさんあります。

八重樫:大学1年のとき、王者クラスの4年生とスパーリングを毎日やらされました。「やりすぎだろ」というところまで追い込まれたけど、いまは感謝してます。理不尽と思える練習が、自分の限界を壊してくれることもある。

後閑:若いときは毎日200キロを自転車でこいでました。つらいけど当たり前と思って必死にやってきた。練習量では、誰にも負けてない。根性論が否定される意見もあるけど、本当にぎりぎりの勝負になったときは「おれはこんだけやってきたんだ」っていう気持ちが出る。

八重樫:最終的には、そこですよね。技術があっても、勝負にならないときがある。気合と根性が体にしみこんでいれば、本当の接戦になったとき人間性が出る。試合でラウンド途中まで互角でいったとしても、中盤で相手が落ちたときに、根性で上げていける。それが自分の武器。年くってるんで、できるんですよ。

後閑:しかるべき時に、しかるべき練習をやる。それを若い子がやったら、強くなりますよ。長く続けられる選手も、どんどん増えていくと思います。

■編集部からのお知らせ
3月7日に発売の雑誌「CoCoKARAnext」では読売ジャイアンツ・菅野智之投手のインタビューの他、プロ野球選手に学ぶ仕事術などストレスフルな時期を乗り越える情報を掲載。

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

八重樫 東(やえがし・あきら)

1983年(昭58)2月25日、岩手県北上市生まれの35歳。拓殖大学在籍時に国体でライトフライ級優勝。卒業後、大橋ジムに入門。元WBA世界ミニマム級王者、元WBC世界フライ級王者、元IBF世界ライトフライ級王者と世界3階級制覇を成し遂げる。スーパーフライ級で日本人初の4階級制覇を目指す。プロ通算32戦26勝(14KO)6敗。162センチ。右のボクサーファイター。

後閑 信一(ごかん・しんいち)

1970年(昭45)5月2日、群馬県前橋市生まれの47歳。前橋育英高校卒業後、65期生として日本競輪学校に入学。在校成績5位で卒業。90年4月に小倉でデビュー。96年G2共同通信社杯(名古屋)でビッグレース初V。GⅠ優勝は05年競輪祭(小倉)、06年寛仁親王牌(前橋)、13年オールスター(京王閣)。通算2158戦551勝。愛称は「ボス」。獲得賞金12億6420万4933円。176センチ、93キロ。

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