どれだけ活躍しても「調子に乗らない男」――東海最注目のドラフト候補、モイセエフ・ニキータの高校3年間とこれから
■どれだけ活躍しても調子に乗らない
誰もが認めるチームの中心選手。さらに、どれだけ活躍しようとも、テングにはならなかった。長谷川監督はそう証言する。
昨年秋の東海大会では、9回裏二死での同点タイムリーなど、モイセエフの猛打で翌春のセンバツ出場を当確とした。試合後の囲み取材で長谷川監督は「とにかくニキータに打席が回ってくれと願っていました。愛知県では『私学4強』(愛工大名電、享栄、中京大中京、東邦)がすごいと言われる中、ウチも『ニキータ』で胸を張れます」と、モイセエフの存在を前面に打ち出していた。
「本当はみんなで勝つのが一番いいんでしょうけど、どう考えてもニキータの力が大きかったので。チームの精神的な支えでもあるし、他の選手は『俺たちのせいで負けられない』と奮起します」
モイセエフがいたからこそ、チームの形が出来上がった。そして、スター扱いされる状況でも、モイセエフが高慢になることはなかったと若き指揮官は言う。
「あれだけ結果を残して注目されると、高校生なら調子こいてしまうのが普通なのに、そういう様子が一切ない。全力疾走も欠かしません。『調子乗るなよ』みたいに叱ることは、まったくありませんでした」
■才能と努力で規格外の選手に
モイセエフの打撃は、理論以上に本能が勝るタイプに見える。コンタクト能力は天性のもので、打率6割超を記録した大会も複数ある。
長谷川監督が「中学3年夏に初めて見たとき、スイングの形がすごく整っていました。癖がなくきれいに回転できていました」と言えば、モイセエフは「小学生の頃から打撃フォームはほぼ変わっていません。調子のいいときほど、何も考えず打席に入れています」と話す。
後天的に身につけたパワーは圧倒的で、高校通算本塁打は18本。今春センバツでは、以前より飛距離が出にくいとされる新基準バットで甲子園第1号アーチをかけた。前年秋の神宮大会での本塁打や、先述の東海大会準決勝での同点打など、大舞台やここ一番に強い。「柳田選手(ソフトバンク)のように、打率を残し、ホームランも打てて、盗塁もできる選手を目指していきたいです」とモイセエフ。“本能”とプロの理論が合わさり、プロの環境で練習を積み重ねていったとき、どんな選手になっているか。ロシアにルーツをもつ逸材の将来は、想像を超えるものになりそうだ。
[取材・文:尾関雄一朗]
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