高校球界で本格導入に進む7イニング制の是非 指導者たちが漏らした“本音”「ちょっと理解に苦しみます」【現場発】
「暑さ対策なら、そもそも暑い時期を避けて大会を行うというのが一番でしょう。でも…」
しかし、一連の課題解消に7イニング制は本当に有用なのだろうか。熱中症対策が喫緊の課題なのであれば、大会を行う時期をずらすという議論はなぜ行われないのだろうか。甲子園出場経験もある指導者もこの点について以下のように話している。
「暑さ対策というのであればそもそも暑い時期を避けて大会を行うというのが一番でしょう。でも、『そうしよう』という声は聞いたことがありません。もちろん夏休みでないと長期の大会は難しいということや、会場の問題もあるかもしれませんが、上手く分散して行うなども検討すべきではないかと思います。
そういったことと並列して、一つの方法として7イニング制も検討するというのであれば理解できますが、いきなり7イニング制だけが先に議論されるというのはちょっと理解に苦しみます。また球数制限の時にも一応加盟校にアンケートはありましたが、それがどのように議論されたかなどのフィードバックはありませんでした。誰がどんな思惑で進めようとしているかは分かりませんが、目的と議論がかみ合っていないように感じます」
冒頭で触れた数々の改革についても、その効果によってどの程度選手への負担が減ったのかという検証結果は公開されていない。にもかかわらず、一方的に9イニングを7イニングにすると言っても、「理解できない」というのは妥当な意見だろう。
ただ一方で、現場から声を上げづらいという側面もあるようだ。別の指導者はこう話す。
「何か新しいことを進めようとした時に反対意見を出すと考えが古い、頭が固いと非難されやすい風潮があるように思います。やっぱり9イニングでずっとやってきたところから、2イニング減るというのは多くの人が違和感を持っていると思うのですが、表立って反対とは言いづらい雰囲気がありますね。
絶対9イニングが良いという理由づけも難しいのですが……。ただやっぱり100年以上この形でやってきたわけですし、イニングや人数は野球のベースとなる部分ですので、個人的には7イニングが良いとは思えません。慣れてしまえば違和感はなくなるのかもしれませんが」
暑さ対策以外の目的としては運営側の働き方改革という部分もあるとのことだが、この点に関しては運営にもかかわっている指導者の中で、ぜひそうすべきという声は聞かれなかった。
改めてまとめると、これまでの改革も7イニング制についても、「夏に甲子園球場で全国高校野球選手権を行う」ということを守るために行っている改革という印象は否めない。ただ、そう言い切らないところに現場の関係者たちも気持ちの悪さのようなものを感じているのではないだろうか。
高校野球は100年以上の伝統があり、今年の夏の甲子園大会の開会式でも高野連の寶馨会長が「日本の野球の基盤」と話していた。だが、それだけ影響力が大きいものだからこそ、多くの関係者が納得する形であらゆる議論が進められていくことを望みたい。
[取材・文:西尾典文]
【著者プロフィール】
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。
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