森保ジャパンを襲う「勝てば勝つほど不安」の呪い 繰り返す歴史に終止符が打たれる、決定的な理由
森保監督の100試合目というメモリアルマッチで、チームは勝利をプレゼントした(C)Getty Images
一方で、最近はこの「前後論争」をあまり聞かなくなった。理由はおそらく、今の選手たちは「知っているから」だ。ほぼ全ポジションで控え選手に至るまで、欧州で試合に出続けている彼らは、アグレッシブに行けばボールを奪えることを知っているし、ラインを上げてもスペースをカバーする自信がある。逆にブラジル戦では慎重に入ったように、この相手、この状況では無理せず、慎重に守らなければならないことも知っているので、攻撃陣も嫌々下がるわけではない。
今まで攻撃陣と守備陣に分かれて「前後論争」があったのは、ひとえに知らなかったからだ。2010年にグループステージを突破した直後の記者会見で、当時の岡田監督が言ったことは今も覚えている。
「やはり世界の中でトップレベルと本気の試合がなかなかできない。W杯以外では親善試合しかできない。そういう中で本気の相手とやったらどうなるだろうという手探りの状況が、実はこれくらいで、これくらいできるんだと。これ以上無理するとやっぱりやられるんだということを、選手が肌で感じてつかみ出したことが非常に大きい。さじ加減といいますか、その辺りの判断を選手ができるようになったことが一番大きいと思います」
岡田ジャパンがW杯の最中につかみ始めた、世界の肌感覚、さじ加減。それを知らなかった頃は、相手の基準がないので「前から行きたい」「引いて守りたい」と自分たちのwant中心の議論になって、意見が割れやすかった。しかし、今はA代表の大半が肌感覚やさじ加減を知っているので、shouldの議論になる。shouldは相手や状況が正解を決めるので、大きく割れることが少ない。今は攻撃陣も守備陣も、欧州のレベルを日常的に経験しているので、相手をイメージした肌感覚が合いやすい。
2014年のW杯の頃は海外組が増えていたが、それでもポジション毎のばらつきは残っていた。その歪を内包しながら手探りで戦い、強化試合までは好調でも、本大会になって相手が1個上のパワーを出して来ると、チームが揺れた。それが表れやすいのが「前後論争」であり、相手を知らないから戸惑うし、意見や感覚が揃わない。
今、たとえば堂安律は「僕たちは欧州でプレーしていて、欧州を知っている」と言う。今のA代表は世界の肌感覚を知る選手が、ほぼ全ポジションにそろっている。世界のshouldで戦える彼らに、かつてwantの手探りでW杯へ行っていた頃の経験則は当てはまらない。彼を知り己を知れば、百戦あやうからず。孫子の兵法にある通りだ。世界を知り、shouldで戦える彼らの好調を不安に感じる必要などない。このW杯でオールドファンの呪いが解けることを期待している。
[文:清水英斗]
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