井上尚弥はフェザー転級計画をなぜ変更? バンタム時代にもぶつけた”ブレない信念”「パフォーマンスが潰されるなら上げない」
今やスーパーバンタムの全ベルトを保持し、「世界最強」の称号も授かる井上。Lemino/SECOND CARRER/NAOKI FUKUDA
「『とりあえず階級を上げろ』というのは、自分はどうかなと思う」
もっとも、井上が階級を上げ下げする上でのリスクを取ると筆者は思えなかった。過去にもそうした決断を迫られた際に、異論を唱えていたからである。
それは22年12月のことだった。当時、アラン・ディパエン(タイ)とのWBA・IBF世界バンタム級タイトルマッチを終えたばかりだった井上は、敵なしの強さを誇ったこの時も「近いうちに1階級アップさせるのはないか」と見られていた。
しかし、WBC世界バンタム級王者ノニト・ドネアとのリマッチの可能性も残していた井上は「2022年はそこ(4団体統一)にこだわらなくてもいいと思っている。階級を上げることも視野に入れながら。選択肢はある」と色気を見せつつ、階級上げを求めた世間の声を説き伏せた。
「『とりあえず階級を上げろ』というのは、自分はどうかなと思う」
さらに「パッキャオは本当に稀ですよ。あんな選手は過去にいない」と、6階級制覇(8階級制覇とも言われる)した異端児の名を引き合いに出した井上は、こうも続けていた。
「自分もライトフライ級から少しずつ階級を上げてきた。でもやっぱり、もうひとつ階級を上げるのは慎重にならないといけない。『敵がいないから上げろ』ってみんな言いますけど、階級をひとつ上げるのはそう簡単なものじゃない。それで自分のパフォーマンスが潰されるなら上げることはしない。そこが階級制のスポーツの難しさ。ファンが見たいのは分かりますけど、しっかりと身体をつくってから上げないと意味がない」
無論、2年前とは立場も異なり、求められる水準も違う。それでも今回のサウジ決戦においても「上げるべき時期は、今ではない」とした井上の決断には、階級制スポーツの難しさと向き合いながら養ってきた彼の「最強」を追い求めるボクシング観が垣間見えた。
当然、中谷とのドリームマッチを見据えての判断でもある。「自分自身、中谷潤人選手を高く評価している。スーパーバンタム級で戦ってそこ(中谷戦)に照準を絞って戦いたい」と明言する通り、血気盛んな若武者を万全の状態に迎えるために、やはり階級の上げ下げは「今は不要」と見たのだろう。
より話題性のある戦いを求める周囲の風潮に流されず、我が道を行く“モンスター”。ここから先、来春までの戦いは井上のキャリア後半を占うチャレンジとなるだけに、その行く末は興味深く見守りたい。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]
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