本場アメリカでも高まるアフマダリエフの名声 「過去最強の敵」との防衛戦は“怪物”井上尚弥にとって何を意味するか【現地発】

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カルデナス戦を経て、久々に誰もが認める猛者と拳を交わす井上。本人が緊張感を高める決戦で予想されるのは――(C)Getty Images

アフマダリエフにチャンスがあるとすれば……

 スーパーバンタム級での初戦となった2023年7月のスティーブン・フルトン(アメリカ)戦以降、井上は勝敗よりも“勝ち方”が注目される試合を続けてきた。そんな背景からか、ルイス・ネリ(メキシコ)、TJ・ドヘニー(アイルランド)、キム・イェジュン(韓国)、ラモン・カルデナス(アメリカ)といった選手たちと対戦した際の“モンスター”には、多少の強引さが目立った。そういった戦いを経て、久々に自他ともが認める強豪との激突を迎えたことをファンも喜ぶべきに違いない。

 もっとも、そうは言っても、やはりこの試合も井上が優位であることは否定し難い。上記したバランスの良さと、井上が過去4戦中2戦で不覚のダウンを喫した事実を思い返せば、アフマダリエフが「総合力では自分が上」と考えるようになったことは理解できる。ただ、実際にはパワー、スピード、スキルなど、ほぼすべてのファクターで井上が上位。“MJ”の実力を認めている今戦ではより丁寧な戦い方を選択するはずで、だとすれば相手の左フックが飛んでくる位置に身を置くような隙は作るまい。

 アフマダリエフは素晴らしいボクサーだが、井上は歴史的な王者である。蓋を開けてみれば、その差が徐々に顕著になり、中盤以降のストップか大差の判定で“モンスター”の手が上がる結末が濃厚に思えてくる。

 そんな中でアフマダリエフにチャンスがあるとすれば……。それは井上に明白な衰えが見られた時ではないか。2012年にプロキャリアをスタートさせた怪物もいつしか32歳。キャリアの終盤に差し掛かっているのは間違いないのだろう。ここで反射神経、相手のパンチへの反応などに翳りが見られるようなことがあれば、より慎重に組み立てた上でも、致命的な被弾の可能性は出てくる。

 逆に言えば、今戦の中から井上の現在地は見えてくるのではないか。そう言った意味で、このアフマダリエフとの戦いは“モンスター”の今の力を測るリトマス紙的な一戦といえよう。

「1つ言えるのは、アクション満載の激しい試合になるということです。井上は才能に恵まれていて、パワフルで爆発力がある選手。一方、私もパワフルで爆発力があります。攻撃的なボクサー同士の激突なのだから、すごいファイトになることは間違いないと思っています」

 アフマダリエフがそう述べている通り、ハードパンチが応酬する激しいバトルになるのか。それとも、結局は強敵相手だとパフォーマンスのレベルを上げる井上の圧勝で終わるのか。“真実”が見える瞬間は、もう間近に迫っている。

[取材・文:杉浦大介]

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