「倒せなかった試合、ではない」気持ちの“折れない”ピカソを封じた井上尚弥の巧みさ「極めて高度な技術戦だった」
ピカソの戦いぶりは「作戦通り」だったと感じる。スタンスを広く取り、下半身の土台を強固にし、打ち終わりに左フックを的確に合わせる。強打を恐れず、勇敢にパンチを返し続けた。結果として井上選手が“出づらい”状況を多く作り出し、それが判定決着につながったと言えるだろう。
総じて今回の試合は、「倒せなかった試合」ではなく、「極めて高度な技術戦」だった。王者としての重圧を背負いながらも勝ち切る。そうした勝ち方ができるのも、井上尚弥というボクサーの強さであると感じる。
階級を上げてからの井上選手を見ていると、相手の体格差やパワー、距離感といった新たな課題と常に向き合っていることがわかる。それでもKOを狙い続け、年間4試合を戦い抜くのは並大抵のことではない。ライトフライ級からここまで階級を上げてきた事実だけでも偉業だ。さらに上の階級を見据えるというのは、身長差やリーチ差がより大きくなる世界への挑戦で、接近戦の比重が増え、当然リスクも増大する。その中で戦うのは容易ではないが、総合力に長けた井上選手なら成し遂げられると感じる。
話に上がる中谷潤人選手との対戦については、やはり井上選手が優位と見ていいだろう。井上選手はサウスポーに対して右を合わせる能力が非常に高く、遠距離から強振を当てる技術は突出している。その衝撃を実戦で体験した選手は多くないはずで、中谷選手にとっては大きな驚きになるはずだ。井上選手ほどの巧みな距離感を持つ相手はスパーリングでも再現しづらく、その点でも主導権を握る展開が想像されるが、果たしてどうなるか。まずは、次戦の発表を待ちたい。
【解説】須佐勝明(すさ・かつあき)
1984年、福島県生まれ。会津工業高校から東洋大学へ。2012年、自衛隊体育学校所属時にロンドン五輪に出場。ロンドン五輪ミドル級金メダリストの村田諒太は東洋大学の1学年後輩にあたる。株式会社AYUA代表取締役。日本ボクシング連盟理事。日本オリンピック委員会ハイパフォーマンスディレクター。SUSAGYM会長。アジアコーチ委員会委員長。共同通信社ボクシング評論担当。会津若松市観光大使。ほか。
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