なぜ中谷潤人に対戦要求をしたのか? 井上尚弥が告白した「東京ドームで盛り上げよう」の真相 心を突き動かした“演出家”としての視点【現地発】
表彰の舞台で、揃い立った中谷に向かって対戦を求めた井上(C)産経新聞社
目論見通りに進みつつあるシナリオ
井上は以前から現役引退後に大橋ジムの大橋秀行会長の跡を継ぐような形でのプロモーター、あるいはマネージャー的な仕事をしたいという意向を述べていた。ゆえに最近では舞台設定にもこだわっている印象があるが、中谷戦に向けたストーリー作りは“モンスター・プレゼンツ”とでもいうべきか。
実際、その目論見通りにシナリオは進みつつある。5月の決戦が予定通りに実現すれば、5万人前後の観衆を収容する東京ドームは特別な雰囲気になるはずだ。
ただ、“演出家”としての部分が強調されても、肝心の試合に対する準備がおろそかになることはあるまい。ご存知の通り、相手が強いほど、舞台が大きいほど真価を発揮するのが“モンスター”である。オマール・ナルバエス(アルゼンチン)、エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)、ファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)、そしてノニト・ドネア(フィリピン)との再戦やスティーブン・フルトン(米国)でも証明してきた“勝負所”と呼ぶべき一戦での強さは圧巻。昨年9月に行ったムロジョン・“MJ”・アフマダリエフ(ウズベキスタン)戦でのほぼ完璧なアウトボクシングで改めて示された感があった。
誰よりもボクシングをよく知る井上は、前哨戦で大苦戦を味わった後だろうと、中谷を軽視はしないはずだ。選手によって、新階級に馴染むための時間は必要になる。対戦時点で20戦全勝(18KO)という立派な戦績を誇っていたエルナンデスとのノンタイトル戦は、中谷にとって適応のための実戦だった。ここで自身に足りないものを知り、“ビッグバン”はさらに成長するのだろう。
井上もまさにその姿を想定し、中谷戦でリングに上がる際には最高の状態を作ってくるに違いない。
「日本が盛り上がる試合を自分は実現させていきたいと思っている。日本のファンの皆さん、期待はしていてください」
昨年12月27日のアラン・ピカソ(メキシコ)戦後、井上がリング上で残したそんな言葉を聞くまでもなく、5月のメガファイトに期待しないスポーツファンは国内外に存在しないだろう。
中谷戦は前述通り、「キャリアで絶対必須」の戦いではなかったとしても、リング内外の演出家として、そして世界最高のクラッチボクサー(勝負強い選手)として、井上にとっても集大成の一戦という捉え方もできるのかもしれない。
決戦へのカウントダウンはもうすぐ始まる。“モンスター”がこれまででも最大級に輝くその瞬間を、世界中のボクシングファンが待ち受けている。
[取材・文:杉浦大介]
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