井上尚弥が対戦相手の研究で取り組んでいる事、考え方とは?
2018年5月25日に行われた世界ボクシング協会(WBA)バンタム級タイトルマッチで3階級制覇を達成した井上尚弥(大橋)。10年間無敗のチャンピオンをわずか112秒で仕留めたパフォーマンスは、またも「MONSTER」の異名を世界にとどろかせた。ただ、即断即行の裏には確かな準備があった。
「Naoya Inoue」の未知との遭遇
身長差、リーチ差とも10センチ以上。
王者ジェイミー・マクドネル(英国)は井上にとって、いわば「未知との遭遇」だった。さらに試合開始の2時間前に行われた非公式計量は何と65・3キロ。6階級上のウエルター級の重さで、59・3キロだった井上とは6キロもの差があった。父の真吾トレーナーら陣営が「1ラウンドは様子を見ていけ」と指示をしていたのも頷ける。
ただ、実際に井上が「様子見」に徹した時間はわずか30秒ほどだった。
「最初のジャブが伸びてきた時に『あれ?』って。スピードがないし、戻し(パンチを引いて防御に戻る動作)も遅かった」
注目の大一番で試合前はかつてないプレッシャーも感じていた。テレビクルー、後援者、スタッフなど様々な関係者でごった返す控室で、初めて「(会長やトレーナーなど)チーム以外の人には外に出てもらって集中した」という。そんな状況でも、思い切りのいいスタートダッシュを切れたのは、もちろん無謀な思いつきでも単なる勢いでもない。
試合前は「あえて相手を過大評価」
試合9日前に練習をメディアに公開した際、こんな話をしていた。
「自分はいつも対戦相手の映像を見て確認しても『めちゃくちゃ強い姿』をイメージするんです。あえて相手を過大評価する。だから、今は自分のパンチはマクドネルに全然当たらないと思っています。そういう心構えでリング上がると『結構、当たるな』と思えるので」
井上ほどの才能の持ち主が最悪の状況を想定して準備する。それは強いはずである。相手を研究する際、映像のイメージにとらわれすぎてはいけない、リングで向き合ったときに作戦は考えるというボクサーも多いが、井上はあらゆる状況を頭で整理した上でリングに立っているのだ。だから、試合では驚きや戸惑いの表情を見せることはない。
試合前はマクドネルと似た長身タイプの選手を英国、中国などから呼び寄せてスパーリングを重ねた。出入りのフットワーク、ガード位置、ジャブの打ち出し角度など微調整を重ねて対マクドネルにおける最高の井上尚弥を作り上げてきた。
真吾トレーナーいわく「始めたときは距離を探りながらだったけど、最後の方は躊躇なく自分が入りたいときに距離に入っていけていた」という。
マクドネルが出したパンチは30秒余りで左ジャブ7発。最後の1発は井上ワンマンショーの号砲となった。
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[文/構成:ココカラネクスト編集部]
井上尚弥 (いのうえ・なおや)
1993年4月10日、神奈川県座間市出身。
今もコンビを組む父・真吾氏の下、小学1年でボクシングを始める。相模原青陵高校時代に7冠を達成し、2012年に大橋ジムからプロ入り。戦績16戦全勝(14KO)。15年に結婚した高校時代の同級生との間に17年10月、長男が誕生した。