藤浪晋太郎の葛藤 疑心暗鬼になっても消えなかった“夢”への渇望「アメリカに行って、肩を壊して引退することになってもいい」
メッツでは怪我もあり、満足に投げられない苦悩の日々が続いた。(C)Getty Images
賛否も渦巻いたメジャー移籍。それでも藤浪は――
もどかしい日々を送る一方、胸にずっと消えない夢もあった。それがメジャー挑戦。22年9月に初めて意思を表明した。
成績が下降していく最中だったため賛否も渦巻いたが、自身でも止められない思いだったように見えた。
「極端な言い方にはなりますけど、来年(23年)、アメリカに行って、肩を壊して引退することになってもいいと思ってるんです。自分が死ぬ時に後悔したくないので」
より高いレベルで力を試してみたい。アスリートとしての純粋な向上心にストップをかけられなかった。だから今、大きな壁にぶつかっても、打ちのめされることなく、現実を受け止めて前を向く。それは藤浪にとっての「挑戦」に他ならないからであり、ずっと求めていたものだった。
筆者はメジャー挑戦を表明する前の22年夏、藤浪に一冊の本を薦められた。「DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール」(ビル・パーキンス著、ダイヤモンド社)だった。
資産をため込むのではなく、自身の良質な経験のために惜しみなく使え――。喜びを先送りせず自分の人生を豊かにすることに意識を向けて何も残さず“ゼロで死ぬ”。野球の話題は出てこないビジネス書には、自身のキャリア観で腹落ちする部分が多かったそうだ。
「長いスパンで人生を捉えた中で考え方がちょっと変わりましたね。“ゼロで死ぬ”っていう……」
まさに“ゼロで死ぬ”ために藤浪は海を渡ったのだろう。だからこそ、メジャーで打ちのめされようとも、マイナーでどん底を味わっても、前進し続けてきた。
当然、メジャーで数字を残すことが自身の求めるベスト。それでも、成功と失敗の二元論でアメリカでの挑戦を捉えていない。2025年、どこのマウンドで腕を振っているのか。海を渡った藤浪晋太郎の旅にはまだ続きがあることを願っている。
[取材・文:遠藤礼]
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