「あんな大舞台で負けたことあんのかよ」――那須川天心は「敗北」を知って何を得たのか 井上拓真戦から感情が揺れ動いた日々
井上との激闘で「ボクシングの深み」を知った。そんな那須川は、そこからの5か月間をどう過ごしてきたのか(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext
井上の戦略に完全にハマった敗北
何しろ負け方が負け方だった。
序盤2回までは、持ち前の技術とスピードで井上を翻弄した那須川だったが、リーチの差を埋めるように距離をグッと縮められた3回以降は後退。プレッシャーを強められ、反撃の余地も見いだせずに屈した。「(ペースを)上げていけばいける自信があった」という井上の戦略に、完璧にハマっての力負けだった。
試合の流れが変わっていくのをリング上で感じ取っていた。だから焦った那須川には、「出ると判断が遅れる」という迷いも生じた。そうして、技術面でも、心理面でも、眼前に立ちはだかった元世界王者に「差」を見せつけられていた。
那須川自身が「ボクシングの深みの差でやられた」と唇をかんだ敗北。そこから時の流れの中で「自分の戦う姿勢だったりを見返したり、掘り返したりしたりした」という27歳は、「勝たないと晴れない」と悔しさを漏らした。
相当な覚悟は、自らが望んだ環境の変化にも滲み出る。この試合に向けては、元世界2階級制覇王者で、ボクサー転向以来、師事してきた粟生隆寛トレーナーとのコンビを解消。15歳からボクシング技術を学んだGLOVESジムの葛西裕一会長と新たにコンビを組み、さらに父である那須川弘幸会長のいる古巣のTEPPEN GYMでも汗を流した。すべてにおいて原点回帰をし、自らを問いただしたのである。
葛西会長とはハイガードと左の強打を意識し、より前にプレッシャーをかけていく、ファイター寄りのスタイルを再構築。アウトボクシングではなく、果敢に打ち込む戦術を磨き上げてきた。これをエストラーダに繰り出せれば、相当な強みとなる。
敗北を知り、血のにじむ努力をしてきた。だからこそ、誹謗中傷も入り混じる批判的な声を唱える世間に、思うところがある。勝敗予想について問われた那須川は、「予想なんてデタラメ。うるせぇって話。本当に舐めんじゃねぇよって。戦うのは俺。みんなボクシングしか見てない。那須川天心を見てない。一人の人間として、どこまで行けるのかを見てほしい」と訴えた。
「俺は成功体験が人をダメにすると思ってるんで。勝ってきたからこれでいいやってことは一生ない。自分を壊して、自信が持てるようになって、また、その自信が壊れていく。でも、それこそが自分の中の生き甲斐なんで。別に誇らしく思うことはないですけど、『あんな大舞台で負けたことあんのかよ』って。人前で恥をかけるのも幸せなことなんで」







