なぜか当たらなくなるパンチ――歯車が狂った那須川天心が語った「敗因」 井上拓真が“神童”を引き込んだ「ボクシングの深み」

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天心に生じていた「焦り」

 12ラウンドを戦い終えた感想を「やっぱり(拓真の)距離感がうまかった。自分が練習しているものが出せない間合いだったり、距離感に拓真選手がいたというのが敗因かな」と振り返る27歳は、「出していないけど先手を取られているという感覚がずっとあった」と口にする。

 心の中で「プレッシャーをかけてくるだろうなと思った」という天心だが、打てども、次第にパンチが当たらなくなっていく展開に「やっぱり経験の差と言いますか、そこで立て直されたなっていうのはすごいありました」と漏らす。

「(焦りは)ありましたね。『うわ、これどうしようかな』『初めてだ』みたいな感じで。スパーリングで自分が良くない時のパターンの動きになってしまってたので、そこをどうしようかなみたいな。試合中に迷いが出ると判断が遅れるんで、そこを先に取られちゃったなっていうのがありました」

 序盤に効果的だったスピードもいつの間にか死んでいった。そこには拓真の力量が影響をもたらしていた。天心は言う。

「させてくれなかったと言いますか、だから、本当に迷いです。ちょっとした『どうしよう』みたい気持ちがあった。格闘技って一瞬の間が大事じゃないですか。そこは本当に経験の差、ボクシングの深みの差でやられたなっていうのはあります」

 刹那の駆け引きの中で負け知らずの神童をボクシングの深みに落とし込んだ拓真。一時は引退も決意したところからふたたび這い上がり、「天心選手に勝つんだっていう気持ちでここまできた」と家族とともに誓った“打倒・天心”の野望を見事に実らせた。

[取材・文/構成:羽澄凜太郎=ココカラネクスト編集部]

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