演奏者のココロとカラダはどうあるべき?
ゆとりある精神をクラシックを通じて発信:白寿生科学研究所

2017.09.19

株式会社白寿生科学研究所

 ともに世界が主戦場のチェリスト・中木健二さんとピアニストの永田美穂さんは仲良し夫婦。
 Hakuju Hallの支配人も務める白寿生科学研究所の原浩之副社長と3人で、クラシック奏者のココロとカラダはどうあるべきか、語り合いました。

(原) Hakuju Hallで「リクライニング・コンサート」を考えたのは、クラシックが縁遠い人たちに向けて、ちょっとでも広げられないかと思ったのがきっかけです。リクライニングで寝ながら聴いていいですよ、と。チケットが高いと思われていたから、当初は1,500円にして。音楽家が近寄りがたいイメージがあったから、MCで喋ってもらったり。さらには演奏が長いというイメージがあったから、1時間で終わりにして。「寝ちゃいけない」という緊張じゃなくて、「寝ていいよ」にしたんです。今までの既存概念をすべてひっくり返すようなシリーズを考えたんですね。

(永田) 私が地元の山形で演奏会をする時、友人達は当初、クラシックの演奏会に行き慣れていなかったんです。でも私の演奏会を聴くことをきっかけにだんだん、クラシックについての考え方で壁が取れたといいますか。最初は本番前夜に電話が来て「何を着ていけばいいの?」というところから始まって「何でもいいよ。気軽に来てね」と。そういうところから実際、生で音を聞いたときに、CDで聴くのとは違う何かを感じたみたいで、自分なりの感想をすごく言ってくれて。一度聴きにきてくれれば、敷居が高いものではないですし。

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(原) アマチュアのオーケストラでもあります。「当日はスーツじゃなきゃだめ?」とか。「水着じゃなきゃいいですよ」と言ったことがある(笑)。

(中木) まずは生で聴いてもらうことですよ。

(原) バッハの音楽が大陸を超えて日本に来て、音符で残っているということは多分、350年にわたり、誰かが聴いてきたから生き残ってきたんですよね。何とかしてクラシックを聴いてもらう場所を、というのと、弊社は運動と食事と精神がきちんとしていれば、人は病気にならないと60年前から言っていて。だから本社ビルからゆとりある精神をクラシックを通じて発信しようと、リクライニング・コンサートを始めたんです。

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フランスではサロンから音楽や芸術が広がっていく

(中木) 僕らは2人ともフランスが長かったんですが、向こうにはサロン音楽で芸術を育んできたという文化があるんですよ。

(永田) サロンに音楽家たちが集まって、自分で作曲をしたら「こんなのできたんだよ!」ってその集いで披露する人もいれば、その場でよしあしが決まって後に広がっていったというような。

(中木) 作曲家と、例えば詩人とか作家らがサロンを通して知り合って、理解を深めていくという。それが今でも根付いていて、僕らがフランスにいたときも、そういうサロンでやる演奏会にたくさん出演させてもらいました。

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(原) お二人がフランスに行こうと思ったのは、どんな理由からですか。

(中木) 僕は習いたかった先生がいたからフランスに行っただけで。その人がカンボジアにいたら、カンボジアに行ったと思います(笑)。それくらいそのチェリストに夢中で。コンセルヴァトワールという学校にも憧れて。

(永田) 私は7年間、高校、大学と桐朋に通っていて、先生がヨーロッパで学んだ方だったんです。それで先生から「まずは行って、生活することが大事だから、行ってらっしゃい」と。生活すると、フランス人の特徴だったり、文化だったりを目の当たりにするので、それが音楽にもつながるし、日本で経験できない辛い経験をしていらっしゃいと。言葉の壁、文化の壁、すべて大変でした。

(原) 向こうは地震がないから、有名な音楽家たちが何百年前、歩いた石畳とか、ベートーベンやモーツァルトの生家が残っている。東京でずっと楽譜を見て習っている以外のイメージなど、表現者としては大きな経験になりますね。だからアスリートが海外に行って一流にもまれて、というのとはちょっと違う。当時の文化をそのまま体全体で実感できるというのは大きい。

(中木) やっぱり距離感です。芸術にしてもスポーツにしても、生活の中における重要さが全然、日本と違うんです。

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(原) 例えば?

(中木) 日曜の午前中などに「今日は仕事が休みだし、演奏会でも聴きに行こうか」みたいな感じで、みんなふらっと演奏会を聴きに行く。僕がいたボルドーのオーケストラは日曜の朝、室内楽の演奏会をやっていて。曲目は何でもいいからと、演奏家が弾きたいものをプログラミングするんですけど、1,000人ぐらいのホールかな…日曜日の朝ですよ、絶対満席です。子供からおじいちゃん、おばあちゃんまで、僕らがコンビニに行くみたいにといったら言い過ぎかもしれませんけど、それぐらい簡単に美術館や演奏会に行く。フランス人にとって同じくらい、それ以上に大事なパーセンテージを占めるのは、サッカーとテニスなんです。サッカーの試合があるからという理由で、リハーサルがなくなったことは何回もあります(笑)。日本ではサッカーの試合のために、仕事を休まないじゃないですか。でも彼らにとっては、それが何にも勝る重要なファクターなんです。

(永田) フランス人は時間の使い方が非常に上手。いろんなものに興味があって、休みになると行動して。したいことをするというのが見ていて気持ちいいぐらい。で、働くときはちゃんと働く。疲れて何もしないとか、そういうことはなくて。

(原) まず休みがあって、好きなことをできるために労働があるという。日本だと疲れ果てて「今日だけは休ませて」みたいに摩耗しているのに(笑)。休みと仕事の順序が違うんでしょうね。

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