トップ選手がネコ科の動物の走りを見ていて気が付いた事 「やっぱ、チーターって身体の使い方、最強でしょ」
プロボクシング・スーパーフライ級で日本人初の4階級制覇を目指す八重樫東選手(35)と、競輪界で「ボス」の愛称で親しまれる後閑信一氏(48)のスポーツ対談。今回のテーマは体の連動性や、偉大な先人の言葉について。競技は違っても行き着く先は動物の「チーター」という共通点が見つかるなど、こだわりとこだわりのぶつけ合いはヒートアップしました。
子供と遊んでいて気付く人間の身体の動きの基本
後閑:8月の試合が近づいていますが、減量は大変じゃないですか。
八重樫:20年以上、減量と向き合っているので作業のようにやっています。メチャメチャきついと思ったことはないです。減量よりも、リカバリーの方が大変。試合前日に計量をパスした後、どう食べて、どう回復させるか。体と会話している時間が長いですね。
後閑:リカバリーはどうやるんですか。
八重樫:計量パスしたら、最初に水分を入れます。減量で3.5~4リットルくらい、体から「水抜き」しているので、ゆっくり戻します。一気にではなく、経口補水液200CCを10分おきに飲む。これを繰り返して、点滴もします。点滴は体に一番、水分の戻りが早いので。
八重樫:日常的に、体の使い方を考えることってありませんか。
後閑:あります。寝ている間以外は、常に考えちゃっていますね。
八重樫:自分の子供が公園の雲底の遊具で遊ぶのを見ていたんですけど、最初はできなくて、落ちていた。何回かやっているうちに、体の反動を使って、できるようになった。背骨から体を動かして「それだよ、それ!」と嬉しくなったり。手で先行するんじゃなくて、背中を最初に使えば、ボクシングもパンチが伸びるんですよ。
後閑:小さい子のほうが得るものが多いですね。ハイハイしている姿を見ても、肩甲骨と骨盤の連動がうまいなーとか。あれって無意識でやっていますよね。
八重樫:体を動かしやすいところで動かしている。あれが本来の体の使い方なのかな。見ているところが(後閑さんと)ほとんど一緒です。
テレビで動物番組を見ていて気付く事
後閑:たとえばブランコでも、遠心力を上手に使う子がいる。足の出すタイミングで止まったり、加速したりする。空中で体を動かす自転車のペダリングも一緒。テレビや動画でチーターを見たりする事もありました。すごい動きをするじゃないですか。
八重樫:同じです、ぼくもチーターの動きを見ます。チーター、とくにネコ科の動物。ネコの背中は湾曲を描いているんですけど、背骨の連動率が高いからメチャメチャ飛べる。体全部を使うというのは、ネコ科の動きなんだと。ランニングトレを指導して頂いている人がいて、野良猫がいるとずっと追いかけていくんですよ(笑)。その話を聞いて、ネコを見つけて観察した事もあります。すごいなあ、ネコはこうやって体を使うんだと(笑)。
後閑:ネコを立たせて、後ろ足だけでは飛べないですもんね。自転車も四つ足なんですよ。大事なのは肩甲骨と骨盤の連動なのに、外側に筋肉をつけて、繊細な神経を覆っちゃって、動きを悪くする。腕を引っ張って、足を踏んで、力だけでこぐと思っている人が多い。筋肉は酸素を使うので疲れる。全身運動だと疲れにくい。体の使い方を研究するといいんです。
八重樫:同い年の山中慎介(元WBC世界バンタム級王者)が先に引退したんですけど、体はやせっぽっちなんですよ。必要な筋肉はついているけど、そこまで肥大してない。パンチ力がなさそうな体をしているのに、殺傷能力が高い。体全体を使ってパンチを打てるから、1発が強い。連動させる力、骨をうまく使うことが大事なんですよね。
後閑:競技が違うのに、なんで全部一緒なんですか(笑)。
八重樫:体の使い方は野球でもサッカーでも、同じなんでしょうね。
強い選手は「逆のことをしてみる」と言う発想を持っている
後閑:プラスして競輪は道具を使うので、重力に逆らう動作が、スピードを生む気がするんですよ。自転車のセッティングもそう。ハンドルが合わないので、近くしてと言われる。近くしても良くならない事があって、さらに遠くしてやると間が合って良いこともある。逆の事をしてみる発想は、強い人たちがやっていることが多いです。
八重樫:物を使っているからこそ、経験を生かせる。頭が良くないとできませんね。
後閑:脳についての勉強もしたんですが、考えるのが大脳、動作を記憶するのが小脳。大脳で考えて「ここだ」って思っている時点で、反応が遅い。それでいつも負けていました。レースでは、無になって、集中して、本能に任せれば、いままでの経験を録音している小脳が再生してくれる。そう考えるようになったら、気持ちが楽になった。無心になって体が勝手に動いて、43歳でタイトルもとれたんですよ。VTRを見て、こんな動きができたんだ、ってびっくりしました。いわゆる「ゾーン」に入る回数が、40歳をすぎてから増えたんですよ。
八重樫:オートマですよね。パンチも視覚でとらえると、確実に遅い。よく肩を見て、目を見てとかいうんですけど、基本的には、何も考えてないオートマの状態のほうが反応できる。「来た来た」では考えているから遅い。反応と反応の瞬間的なやりとりで試合は成立する。頭の中を真っ白にした状態で「ここ空いているんじゃないかな」という断片的な思考のサインだけで動く。
後閑:本能に任せた方がいい。無になって、経験と集中がゾーンを作ると思うんです。競輪は障害物競走で、同じレースはない。それでも常にイメージトレーニングはしてる。イメトレした分も経験として小脳に入ってるんでしょうね。
※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]
八重樫 東(やえがし・あきら)
1983年(昭58)2月25日、岩手県北上市生まれの35歳。拓殖大学在籍時に国体でライトフライ級優勝。卒業後、大橋ジムに入門。元WBA世界ミニマム級王者、元WBC世界フライ級王者、元IBF世界ライトフライ級王者と世界3階級制覇を成し遂げる。スーパーフライ級で日本人初の4階級制覇を目指す。プロ通算32戦26勝(14KO)6敗。162センチ。右のボクサーファイター。
後閑 信一(ごかん・しんいち)
1970年(昭45)5月2日、群馬県前橋市生まれの48歳。前橋育英高校卒業後、65期生として日本競輪学校に入学。在校成績5位で卒業。90年4月に小倉でデビュー。96年G2共同通信社杯(名古屋)でビッグレース初V。GⅠ優勝は05年競輪祭(小倉)、06年寛仁親王牌(前橋)、13年オールスター(京王閣)。通算2158戦551勝。愛称は「ボス」。獲得賞金12億6420万4933円。176センチ、93キロ。