井上尚弥の名を口にした“メイウェザーの愛弟子”の体重超過 米国内で渦巻く18歳への疑念「大きな危険信号」【現地発】
モートンを早くから目にかけ、井上の名を使いながらプロモーションを展開するメイウェザー。(C)Getty Images
若手ボクサーの優遇はいいことばかりにあらず
日本のファンの間でもモートンの名はすでに少なからず知られている。その理由はプロ入り直後から井上尚弥(大橋)の名を自ら引き合いに出してきたから。昨年9月30日、サウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)対ジャーメル・チャーロ(米国)戦のアンダーカードで用意されたプロデビュー戦(フェザー級4回戦)で初回KO勝ちを飾ると、直後、会見の場で早々と“モンスター越え”を宣言した。
「イノウエは良い選手だ。スキルがあって、速く、強い。ただ、僕は彼よりもずっと大きくなる。最終的には遥かに優れた選手になれると思っている」
会見に同席した“プロモーター”メイウェザーも、「日本のあいつ(=井上)といつか戦うことになるかもしれない。名前の発音がわからないけど、あいつだよ」と例によって傍若無人にモートンに同調。“モンスター”の存在を巧みに使い、「井上の将来のライバル候補」という形でモートンの知名度を広げた。
このエピソードはメイウェザーのマーケティングのうまさと、現在の米国内での井上の評価の高さを物語る。“イノウエ”はたまた“モンスター”に付与されれば、話は少なからず大きくなる。さすがは2015年のマニー・パッキャオ(フィリピン)戦を興行面では史上最大のイベントに仕立てたメイウェザーという他にないのだろう。
ただ……華やかなプロデビューから1年半も経たない現時点で、上記通り、モートンの今後を不安視する声が増えている。163センチの小柄な体躯でもウェイトは1戦ごとにかなり上下してきた。プロ第1戦はフェザー級リミットを少しオーバーした契約ウェイトで戦っていたが、10月の第6戦はスーパーライト級。依然として身体は大きくなっているはずで、もう近未来の井上戦など現実的ではない。
「あれほどの体重超過は大きな危険信号だ。私にはいい兆候に見えない」
ニュージャージーでの試合を計量オーバーで流したあと、元WBO世界スーパーライト級王者で、現在は解説者を務めるクリス・アルジェリがそう指摘していたことも無視できない。端的にいって、今では米国の多くの関係者がアルジェリに同調するのだろう。
モートンの次戦は2月1日、ラスベガスのT-モバイルアリーナで予定されている。デビッド・ベナビデス(米国)対デビッド・モレル(キューバ)という好カードのアンダーカードと、またビッグステージだが、どのウェイトになるかは未定だ。再び計量時から大きな注目が集まるに違いない。
「ボクシングでは、リングに入るその瞬間まで何が起こるかはわからない。今回の件から学び、成長してほしい。まだまだ伸びていってほしい。それだけだ」
メイウェザー・プロモーションズとは「関係がいい」というガルシア・プロモーターはそう述べており、今後も自前の興行でモートンを起用したいという意向を見せている。このように早い段階から若手ボクサーを“Aサイド”として優遇することは、その選手にとっていいばかりではないのかもしれない。その才能は誰もが認めるものがあるが、今の待遇で規律を学ぶことは可能なのか。それを助けるサポート体制は周囲に存在しているのか。
モートンの存在はボクシング界にとって最新のテストケースとなる。今後しばらく、まだ18歳の有望株はリング内外で注目を集め続けることになりそうだ。
[取材・文:杉浦大介]
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