【高校ラグビー総括】わずかな「勝負勘」の差が大きな得点差に 桐蔭が仰星を上回ったポイントは?
仰星は終了間際にも2本の見事なトライを奪い、意地を見せたが残念ながら届かなかった。繰り返しになるが、両チームのフィットネス、技術には点数差ほどの開きはなかった。後半9分過ぎのラインアウトからのモールと、その直後のスクラムで1回だけ桐蔭が仰星を圧倒する場面があったが、それ以外はどの場面を取ってもほぼ互角だった。
そのほんの少しのプレーの精度の差で生じたスキを大きな得点差に結びつけたのが、HB団の活躍だ。特にSO丹羽の存在が大きかった。大阪の東生野中学から、敢えて強豪ひしめく地元での高校生活を選ばず桐蔭に進んだ変わり種。その高校生活は相次ぐ怪我との戦いだった。特に2023年に負った左前十字靱帯損傷は、ラグビー人生にピリオドを打ってもおかしくないほどの大怪我だった。一時は「ラグビーボールを見たくない」とまで思い詰めたが、そんなどん底状態からはい上がり、心身ともに一回り大きくなってレギュラーに復帰した。
今大会前にも左手指の骨折に見舞われたが、そんなことを微塵も感じさせず、決勝まで見事に司令塔としての役目を果たした。決勝では自在なポジションチェンジとパスワークで仲間のトライを演出するとともに、後半には自ら2本のトライを奪って、ランのスキルの高さも示した。強力なチームメイトたちに支えられた優れた才能が、最高の舞台で強烈な輝きを放ち、チームに優勝という果実をもたらしたのだ。
丹羽は高校卒業後、同志社大学への進学予定だ。大学選手権3連覇を始め、長い間大学ラグビーのトップランナーであった同大ではあるが、近年では低迷し、関西リーグ1部、2部の当落線上をウロウロするような状態が続いている。どん底から、一気に頂点に駆け上がった経験を持つ丹羽が同大をどのように変革していくのか。ステージが上がった丹羽の活躍と、丹羽の影響で同大がどのように変わっていくのか。来季の関西大学リーグには要注目だ。
[文:江良与一]
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