アジア制覇の主将・藤田譲瑠チマが迎える「パリ五輪」だけじゃない正念場の1年 「生きる道」を確立できるか
これだけの魅力がある以上、本大会でも藤田のスタメンは間違いない、と言いたいところだが、所属するシント=トロイデンでは準主力の扱いに留まっている。3-4-2-1のセンターハーフで伊藤涼太郎とのチョイスになることが多く、基本的には伊藤のほうが出場機会をつかんでいるのが現状だ。2人でスタメン出場したり、あるいは山本理仁と組んで試されたりもしたが、勝負所で結果を残せず、現状の扱いに甘んじている。
シント=トロイデンはポゼッションスタイルなので、相性自体は悪くない。しかし、藤田は360度の大角度で複雑に味方と関わり続けるのが、最も持ち味が引き出されるプレーであり、ポジションを具体的に挙げればアンカーだ。しかし、3-4-2-1のセンターハーフの場合は、前方にスペースがあるため、トップ下のように振る舞える伊藤のほうが大胆に敵陣を攻略し、得点力を発揮している。監督は元神戸のトルステン・フィンクだが、日本人同士でセンターハーフを組ませると空中戦の不安が大きいため、2人のチョイスで伊藤を優先している判断は理解できる。
藤田の特徴は、周りの味方の能力が高く、プレーが早く複雑になればなるほど相乗効果が出る。ビッグクラブでこそ真価を発揮するだろう。しかし、ステップアップするためには勝負所で自らを輝かせる必要があり、合わせたりバランスを取ったりするだけでは永遠に声がかからない。そういう役割は自国の選手や、監督に近い選手で賄われてしまうからだ。
横浜F・マリノスでの最後のシーズンも、渡辺皓太と喜田拓也の壁を越えられず、控えがほとんどだった。決して藤田も能力で劣っていたわけではないが、渡辺が持つ攻撃の大胆さと身体の張り方、そして喜田はどんな汚れ役でも買って出ようとする起点潰しの信頼感があった。
評価は高くても、信頼まで到達しない。1.5軍に回されがちな現状はそう見える。言い方を変えれば、伊藤や渡辺、喜田の場合は、仮に出場させなければ、その判断を後悔させられそうな選手だが、藤田はそうではない。いかにプレゼンス、影響力や存在感を高めて、恒星になるか。
シント=トロイデンはこの7年ほどの間、欧州スカウトに評価されにくい日本人選手の玄関口として、重要な立ち位置にあった。冨安健洋や遠藤航、鎌田大地のようにステップアップを果たした選手がいる一方で、叶わなかった選手も多い。パリ五輪を含め、2024年は藤田にとって岐路となる1年だろう。
[文:清水英斗]
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