米記者が見る中谷潤人の“可能性” 迫る井上尚弥とのスーパーファイト前に証明すべき真価「イノウエといえど、単純には通用しない」【現地発】
持ち前の体躯を利した危なげない試合運びで西田を破った中谷。そのポテンシャルは世界でも指折りだ(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext
“モンスター”とわたり合うためには…
WBC世界同級10位にランクされるエルナンデスは20戦全勝(18KO)。スピードはそれほどでもなくとも、鎌のようなフックをさまざまな角度から繰り出してくる典型的なメキシカンファイターだ。戦績ほどの一発のパワーは感じさせないものの、澱みなく手数が出て、ショートパンチも打てる。実力、格的に、中谷にとってスーパーバンタム級での力試しには最適の相手といえよう。
やはり予想は“ビッグバン”が断然優位だが、あえて見どころを挙げるとすれば、中谷自身と対戦相手のパンチの効果だろう。
まずは中谷のパンチがヒットした時、これまで無敗を続けてきたエルナンデスにどれだけのダメージを与えられるか。もともとフレームの大きな中谷は階級を上げるたびに破壊力を増している印象があるが、その傾向はスーパーバンタム級でも続くのだろうか。減量が楽になる昇級後はよりスケールアップする可能性すら感じさせるだけに、そのパワーから目が離せない。
それと同時に、いや、もしかしたら自身のパンチの効果以上に大事なのは、新階級で被弾した際の中谷がどのような反応を示すかだ。攻撃的なスタイルゆえ、中谷は前戦の西田戦、2月のデビッド・クエジャル(メキシコ)戦でも打たれるシーンはあった。痩身にもかかわらず打たれ強いイメージがあるものの、前戦からさらに約4パウンドも増やし、スーパーバンタム級でもタフネスがそのままである保証はない。
総合力で大きく上回る中谷がエルナンデスに負けることはいずれにしても想像し難いが、井上戦まで目をやったとき、“モンスター”とわたり合うためには標準以上の打たれ強さは絶対に必要。すぐ倒れないというだけでなく、被弾しても戦力を維持できるだけのタフネスは必須だろう。逆に言えば、それがあれば、新階級でも中谷のサイズや力強さは生きてくる。井上にとっても余計に厄介な相手になる可能性は高まる。
エルナンデスは上記通り、90%のKO率が示すほどのスラッガーには見えない。それでも10回判定勝ちを飾った5月のアザト・ホバニシャン(アルメニア)戦では、最終回に左ボディで相手を効かせるシーンもあった。井上とのスパーリング経験もある歴戦の強者、ホバニシャンに明確に勝利するのだからやはり底力はあり、一定の当て勘とパンチ力は備えていると思える。中谷もパンチを受けることはありそうで、そこでスーパーバンタム階級でのタフネスを推し量れるかもしれない。
ついに“モンスター”と同じスーパーバンタム級に辿り着いた中谷。日本ボクシング史に残るスーパーファイトへのカウントダウンは始まり、これから先はすべてが先輩王者との直接の比較対象になる。今回、試金石となる一戦は勝敗以外の面でも興味深い。まずはパンチの効き目とタフネスから、“ビッグバン”の新階級での行く末がうっすらと見えてくる気がしてならない。
[取材・文:杉浦大介]
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