「選手寿命は短くなってしまう」――万能型リリーフを変えた藤川球児監督の“気づき” 24歳の高卒左腕が覚醒した理由【阪神】
及川に「基礎」を徹底させ、一から見直しを図らせた藤川監督。その“刺激”は24歳の左腕を変えた(C)TakamotoTOKUHARA/CoCoKARAnext
先発と中継ぎもこなせる「万能左腕」からの脱却
2年ぶりのリーグ優勝へ突き進む阪神の進撃を支えているのが、リーグ屈指の安定感を誇る救援陣だ。救援防御率はシーズン終盤にして1点台後半と2点台前半を行き来。藤川球児監督がチームの「心臓」と称した言葉は決して大げさではなく、豊富な陣容を誇る先発陣と合わせて他球団の打線を無力化する圧倒的なパフォーマンスを披露して数多の勝利を確かなものにしてきた。
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今季の象徴は、日本新記録となる40試合連続無失点(25日時点で42試合連続)を記録した石井大智で間違いない。だが、高卒6年目で本格開花した及川雅貴のブレークも忘れてはいけない。25日の時点でキャリア最多かつチーム1位の54試合に登板している左腕の防御率は0.87。加えてリーグ2位の40ホールドを記録するなど、岩崎優、石井と並ぶ「勝利の方程式」を形成してフル回転を続けている。
昨季までの及川は、潜在能力こそ高いが、突き抜けることができなかった印象が強かった。
高校時代は名門・横浜高のエースとして、佐々木朗希(ドジャース)、奥川恭伸(ヤクルト)、そして同僚の西純矢とともに「高校BIG4」と称された逸材だった。迎えたプロ2年目の21年に早速1軍デビューを果たすと、主に中継ぎで39試合に登板。しかし、翌年はわずか1登板に終わり、阪神が38年ぶりの日本一に輝いた23年こそ33試合登板と盛り返したものの、1軍で5試合に先発した24年は1勝3敗とローテーション定着ができなかった。
決して2軍でくすぶり続けているわけではなく、先発と中継ぎもこなせる「万能左腕」と言えば聞こえはいい。だが、今季から指揮を執っている藤川球児監督にはそう映ってはいなかった。
昨秋に甲子園球場で行われた秋季練習で、就任間もなかった指揮官が直接指導したのが、他でもない及川だった。当時に「(指導したのは)基礎的なこと。もう基礎の基礎なので。順調にいっているような選手であれば(自分から)おそらく声をかける必要はないですね」と意図を明かした藤川監督は、多少の“方向変換”を求めた。
そして、指揮官はこう続けている。
「高校生の場合、早くにデビューした選手は基礎の時間を少し置いてしまうというか。削られながら育ってる部分もあるので、それを戻してあげる作業をして、プロで生き抜く本物の強さを身につける期間をちゃんと取らないと。選手寿命は短くなってしまう」
いわば「土台」ができないまま、及川が1軍のマウンドを踏んだことで生じた“弊害”を示唆していた。






