「追いつけなかった」――ドネアも訴えた井上尚弥の“恐ろしさ” タパレスに残った痛々しい傷跡に再認識した異能さ
井上のスピードとパワーを前に、最後は成す術を失ったタパレス。耐えに耐えたが、その堅牢は崩れた(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext
痛々しい傷の数々がダメージの大きさを物語った。12月26日に東京・有明アリーナで行なわれるボクシング世界スーパーバンタム級の4団体統一戦で、WBC&WBO世界同級王者の井上尚弥(大橋)に10回KO負けを喫した元WBA&IBF同級王者マーロン・タパレス(フィリピン)だ。
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試合後だった。悔しさを滲ませながら会見場に登場したタパレスの顔面には、至る箇所に紫がかった痣が浮かんでいた。直後に登場した井上の真っ白な顔とは全く対照的な姿に、筆者も「えっ。ここまで違うの」と思わずこぼしてしまった。
確かに井上のフィニッシュは圧巻だった。ワンツーのコンビネーションで後ろにたじろぎながらも、顔面の前でしっかりと構えていたタパレスのガードもろとも右ストレートで打ち抜いたのだ。被弾し、膝から崩れ落ちた姿を見て“モンスター”は、「これだけダメージが蓄積していたんだ」と感じたという。
試合後に井上が「意外とパンチが当てられなかった」と振り返ったように終始圧倒という試合展開に持ち込めたわけではなかった。タパレスは、相手のストロングポイントである「強打」を打たせない巧妙なディフェンスを披露し、7回、8回はジャッジのポイントでも凌駕。わずかながら世紀の番狂わせの匂いを漂わせもした。
井上をして「手応えは正直なかった」と言わしめたタパレスだが、どうしても反撃の一手は繰り出せなかった。いや、「繰り出させてもらえなかった」が正しいのかもしれない。結果的に、これが敗因にもつながった。
自らを「アンダードッグ(かませ犬)」と語った31歳は試合後に「とにかくスピードが速くてついていけなかった。タイミングを合わせることができなかった」と吐露。試合前に「俺がイノウエの悪夢になる」と自信を覗かせていた「打倒・怪物」がいかに難しいミッションなのかを口にしている。