「自分はドヘニーの実力を軽くみてない」――楽勝ムードを一掃した怪物の言葉 「絶対王者」だからこそ井上尚弥に求められるモノ
「もちろん一発は警戒しながら、一発も触れさせないという気持ちで自分のボクシングを展開していく。当日どれだけ体重を増やそうが、フィジカル勝利をしてこようが、スピード勝負で触れさせなければ問題ない。技術の差を見せて、完封したい」
約2か月前に東京都内で実施されたドヘニー戦正式決定の会見で井上は堂々と言い放った。先述のような世間の空気を悟ってなのか。彼の“断言”は周囲の喧騒をピシャっと沈めた。
31日の会見でも「歴史を作りに来た」と勇んだドヘニーの挑戦を受ける王者の矜持を見せた。臨席したライバルを目視した井上は、「すごく良いパフォーマンスで仕上げてきて非常に怖い試合する選手」と強調し、こう続けた。
「身体は見るからにでかいし、当日は僕以上にリカバリーしてくると思う。そんな相手だからこそ、自分はKOしたいなと思う」
「スーパーバンタム級で戦う中で避けられない1戦ではある。今回、相手がドヘニーになったということ。自分としてはドヘニーの実力を軽くみていない。皆さんが言うほど簡単な試合になるとは自分自身は思っていない」
いつもの会見時、少なくともスーパーバンタムに転級してからの過去3戦の会見時よりも眼光の鋭さは強烈だった。それは大衆から「勝ち方」を求められるようになった王者が抱える重圧に向き合っているようにも見えた。
こうした現象は井上が単なる世界王者と一線を画す所以と言えよう。すでに来年も現階級で戦うと公言している30歳のモンスターには、この先も“圧勝”が求められるはずだ。それは陣営も十分に理解している。大橋ジムの大橋秀行会長は「今やったら、あの時(20、21年のラスベガスでの防衛戦)と全然違う。そういう前人未到のことをやっていくのが、これからの尚弥の役目だと思う」と力説している。
目の前に立ちはだかる相手をどうやってねじ伏せ、いかに観客を納得させるパフォーマンスを見せつけるか――。今回の防衛戦で井上の双肩にかかる重圧は、世間が考えている以上に重いのかもしれない。
[取材・文:羽澄凜太郎]
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