井上尚弥の好敵手になり得る「漫画みたいなボクサー」 メキシコの逸材エスピノサ戦の現実味は?【現地発】
多くのライバルたちから対戦を突きつけられる井上。そんな偉才とエスピノサのマッチアップは現実的に考えられるのか。(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext
ほぼ唯一欠けている“モノ”とは
井上が1階級を上げてエスピノサに挑戦するとしたら、ボクシングファンなら見逃せないマッチアップである。スピード、クイックネス、守備力で上回る井上が優位に思えるが、身長差20センチ、リーチの差17センチがある強豪との戦いは一筋縄ではいかないかもしれない。
「フットワークが素晴らしいし、強打の持ち主でもある。しかも階級を上げながら勝ち続けているのだから、私も彼をリスペクトしている。本当にすごいボクサーだ」
エスピノサ自身は、そう“モンスター”へのリスペクトを述べていたが、井上もこの甘いマスクの同世代王者には一定の敬意を払うのではないか。井上対エスピノサ戦は米西海岸で開催されたとしても、ビッグイベント感の漂うステージになるはずだ。
ただ、現実的に考えると、エスピノサ対井上戦の実現はかなり難しそうではある。井上は1月24日のサム・グッドマン(豪州)との指名戦後も、スーパーバンタム級であと3戦はこなす可能性がある。そのうちの1戦が、現在バンタム級で戦う中谷潤人(MT)との日本人スーパーファイトになり得る。井上が122パウンドにそれくらいの期間止まるのであれば、上記通り、フェザー級としては並外れた体格を誇るエスピノサはもうスーパーフェザー級に上げているだろう。
井上のプロモーターを務める米興行大手『Top Rank』もプランを練っている。エスピノサ対ラミレス戦と同日のメインイベントでは、3階級制覇王者で現在はWBO世界スーパーフェザー級タイトルを保持するエマヌエル・ナバレッテ(メキシコ)がオスカル・ラミレス(メキシコ)に圧倒的なKO勝ち。ボブ・アラムが率いる老舗プロモーションは、このナバレッテとエスピノサを対戦させる青写真を描いているという。
「(ナバレッテ対エスピノサ戦は)巨大なメキシカン・ファイトになる」
アラムの言葉通り、メキシコ人同士の王者対決はあまりにも理に叶うマッチメイクである。その試合が具体化すれば、1階級上げたエスピノサがナバレッテの持つスーパーフェザー級王座に挑む形が濃厚。そうなれば、その試合の結果がどうあれ、エスピノサはもうフェザー級には降りて来ない公算が強い。
ボクサーとして考え得るすべてを持った“パーフェクトボクサー”の井上に、ほぼ唯一欠けているのは興行力の高いメキシコ人のライバルだった。
マニー・パッキャオ(フィリピン)にとってのファン・マヌエル・マルケス(メキシコ)、マルコ・アントニオ・バレラ(メキシコ)、エリック・モラレス(メキシコ)のような存在。それに近い宿敵になるにはルイス・ネリ(メキシコ)は実力、規律が足りず、来春に対戦が噂されるアラン・ピカソ(メキシコ)も実績不足に思える。実力、上昇中の人気を持ったエスピノサは難敵になり得る数少ない素材ではあったが、シンプルに階級とタイミングが合わなそうな情勢だ。
まずは、スケールの大きさを感じさせるエスピノサがどこまで勝ち続けるかが楽しみではある。それと同時に、“モンスター”の宿命のライバルを模索する旅路はまだまだ続いていく。かつてのノニト・ドネア(フィリピン)はおそらくそれにあたり、近未来には中谷が強敵になる可能性がある。ただ、現時点ではメキシカンの宿敵に、ついに出会えぬままキャリア終盤を迎える可能性は高そうではある。
[取材・文:杉浦大介]
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