酷使した膝は限界を超えていた 岡崎慎司が現役最後の瞬間まで“全力”を貫いたワケ「そういうのが嫌いだった」【現地発】

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信念を貫き、挑み続けた岡崎。その“スタイル”は最後の最後までブレなかった。(C)Getty Images

「無理に飛ばして、チーム練習に合流してって感じだったんです」

 あいにくの雨空だった。

 5月のヨーロッパには珍しく、とても寒い。用心して長袖の服を何着かリュックに詰めてはきたが、すべてを着てもまだ心もとないほどだ。

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 ドイツのケルンからベルギーのリエージュへと入り、そこからは一回の乗り継ぎで目的のシントトロイデンに着くのだが、ルートの違う電車に間違えて乗ってしまった。あらゆる事態を想定して早めに家を出てよかった。試合開始の3時間半前にはスタジアムに到着した。

 この日、筆者は、現役最終戦を迎える元日本代表FWの岡崎慎司を見に、シントトロイデンがホーム最終戦でルーヴェンを迎え撃った試合へ足を運んだ。

 岡崎はスタメンに名を連ねた。右足にテーピングを巻いていたが、この試合に向けて全力で調整してきたと話した通り、38歳は試合前のアップから試合中も“らしいプレー”を随所に見せた。

 キックオフ直後には、鋭いスピードチェンジから岡崎は相手の守備ラインの裏を突き、猛然と飛び出した。この走りこむタイミングの妙は、ブンデスリーガ時代からお馴染みの光景だった。マインツでは、智将トーマス・トゥヘルにも認められたクオリティ高いフリーランだ。でも、味方の出してとのタイミングが合わない。シントトロイデンの選手には速すぎるのかもしれない。ビルドアップをしながら前線の動き出しに気を配り続ける余裕がないのだ。

 以降も岡崎は時折いい形でボールを引き出した。

 裏スペースへ走りこみ、ウイングバックからのパスを受けると鋭い切り返しで相手DFを外して惜しいパスをゴール前に通した。さらに味方がサイドからクロスを上げた際には、ファーからニアへ果敢に飛び込んでいく。

 完璧なタイミングでのパスは出てこなかった。しかし、その動きに慌ててついていこうとする相手DFをあざ笑うかのように、岡崎は何度もチャンスを狙い続けた。いずれも、ダイビングヘッドやダイレクトシュートで数多のゴールを生み出してきた熟練さの詰まった動作だった。

 ただ、気になる場面もあった。ペナルティエリア内でボールを受けると、ひと呼吸おいてから味方にパスを流したシーンがあったのだ。「エリア内なのだから思いっきりシュートも打てたのでは?」と思わなくもないシーンではある。少なくとも本調子の岡崎だったら、間違いなく狙ったはずだった。

「右足で足先だけで、とかのプレーができなくなってきてるんですよ。ストレートにボールを蹴ることしかできない。切り返しもできないし、ストップとかもできない」

 酷使し続けた膝はすでに限界を超えていた。泣き言が嫌いな岡崎が「本当に痛い」とこぼすほどに。それでもこの試合だけは無理をした。痛みを考慮して“省エネモード”でプレーをする選択肢だってあった。さらに言えば、シントトロイデンにとっても絶対に勝たなければならない試合でもない。

 でも、選手キャリアの最後に、やれるだけのことをやれなければ、これまでの自分に嘘をつくことになる。

「無理に飛ばして、チーム練習に合流してって感じだったんです。監督の中でも使うかどうかっていうのは多分迷ったと思う。若い選手が、俺が入るから外れてしまう。やっぱり自分はそういうのが嫌いだったから。でもそうして最後に終わらせてもらえた。いろんな選手や監督に感謝して終われる」

 プロとして、プレー時間とは実力で勝ち取るものだ。岡崎はその信念とともにずっと戦ってきた。だから、クラブに多少無理を言って出場機会を準備してもらった以上、できる限りの全力プレーをピッチ上で見せることこそが、自分のためであり、仲間のためであり、チームのためであり、そしてファンのためであるという思いがそこにはあった。

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