【現地発】二刀流完全復活の“舞台裏” 大谷翔平が明かした「心地よい投げ方」の正体とは? コーチ陣の言葉から読み解く
一方の球速はどうだったか。シーズン途中の6月中旬から47イニングのみだったことで、過去のシーズンと単純比較はできないが、フォーシームの平均球速98.4マイル(約158キロ)は過去最速。10月のポストシーズン中、大谷は投球面での感覚について「不安なくしっかり投げられているのが一番の違いかなと。22年、23年も投げましたけど、どこか思い通りにいかない違和感がありながら投げたりしている時期もあった。今のところそういうことはなく、自分のやりたいように身体がついてきている」と語った。繰り返し口にし、重視する「投げ心地」も以前より改善されていた。
日々の反復練習の中でベストな感覚を探っていた。リハビリ担当として投球プログラムを見守ってきた球団ヘッドトレーナーのトーマス・アルバート氏は「我々が変えようとしたのではなく、彼が自ら選んだこと。心地よい投げ方をつかみ、時間をかけて、彼が進化させていった」と証言する。
まず大谷は投球する相手と正対し、左足を引いてから投球動作に移る。腕を振る前の体重移動では、左肩と右肩が平行にならず、右肩が下がることは肉眼でも明らかだった。同トレーナーは「(左足の着地で)腕が遅れて出てくるなら、肩や肘に負荷がかかるかもしれないが、ボールをリリースする時、ステップする時、あらゆるタイミングが合えば問題ない」と語った。コナー・マクギネス投手コーチ補佐も「必ずしも負荷がかかる訳ではない。(右肩と左肩の)傾きがある選手は多くいるし、クレイトン・カーショーもそう。重要なのは臀部(でんぶ)の動きとどう連動しているか」とコメント。ノーワインドアップから投げる大谷の一連の動作は確かに、スムーズに流れるような形だった。コーチ陣の言葉を総合しても「心地よい投げ方」は完成に近づいていたと言える。
投打の二刀流で調整する負担と、故障者の続出で苦しかった先発ローテーションの事情を考慮し、6月16日から1イニング限定で復帰登板を果たした。登板を重ねる中で、大谷はこう言っていた。「元々決まっているイニングをまずは消化するっていうのがリハビリの過程上は大事」。そのためには、立ち上がりから四球や連打で崩れる訳にもいかない。
ノーワインドアップへの変更と工夫を重ねた準備が、着実なステップアップを可能にした。ワールドシリーズでは、2試合の登板で防御率7.56と課題を残した。投手としては、まだ改善の余地がある。それを徐々に、確実にクリアしていくのが大谷翔平だ。来季、さらに進化した姿となるのは想像に難くない。
[文:斎藤庸裕]
【著者プロフィール】
ロサンゼルス在住のスポーツライター。慶應義塾大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。プロ野球担当記者としてロッテ、巨人、楽天の3球団を取材した。退社後、単身で渡米し、17年にサンディエゴ州立大学で「スポーツMBAプログラム」の修士課程を修了してMBA取得。フリーランスの記者として2018年からMLBの取材を行う。著書に『大谷翔平語録』(宝島社)、『 大谷翔平~偉業への軌跡~【永久保存版】 歴史を動かした真の二刀流』(あさ出版)。
【関連記事】タッカー、ドジャースと高額年俸の短期契約で“決着”か「3連覇という偉業に貢献できるチャンスがある」米メディア
【関連記事】ドジャース、走攻守で魅力の二塁手獲得でキム・ヘソンらを放出…“驚愕プラン”を提案「常勝軍団としての文化に合致」米メディア
【関連記事】ド軍24歳“有望株”はレギュラーを奪い取れるか? 「彼はスイッチヒッターだが…」克服すべき懸念材料を指摘






