衝撃の防御率ゼロ点台で際立つ哲学者ぶり 今永昇太の「平均以下の真っすぐ」がMLB打者に「異常」と言われるワケ
打者を翻弄する「見かけだけの球速」
しかし、今季の4シームの被打率はわずかに.154。さらに長打にされやすいとされるバレルゾーンで捉えられた確率は0%である。これだけでも今永の真っすぐが、球速が平均以下でも打たれていないのは明白だ。
ではなぜメジャーの強打者たちは苦戦しているのか。理由はさまざまに考えられるが、要因の一つは、ボールの質にある。
先のパドレス戦で今永が投じたボールの平均スピン数は、2199回。2000回転を下回っているボールは、スプリット(1285回)という驚きの数字を叩き出している。スピン率は高ければ高いほど、ボールの伸びを示す。それだけに今永のボールが、メジャー平均以下の球速以上に手元で伸びているというわけだ。
また、彼の投球フォームの癖も好結果を生み出していると言える。スリークォーター気味の動作からリリースされる今永のボールは打者からすれば、「見にくい」。実際、昨季に複数回対戦していたパイレーツのジョーイ・バートは「彼は背が低いからか、リリースの位置が異常だ」と指摘している。
文字通りの投球術で、打者を翻弄する。そんな今永への声価は高まる一方である。『Marquee Sports Network』の解説者で、元カブスOBのクリフ・フロイド氏は「日本で見ていた時よりも、彼は無駄がさらに削ぎ落されている」と断言。そして、異質な投球スタイルをべた褒めしている。
「彼と対戦する打者はボールが見えないと言う。それは我々がよく話している『見かけだけの球速』が関係していると思う。とにかく“投げる哲学者”のピッチングは見ていて本当に楽しいんだ。たとえ、打者有利のカウントになっても、彼は最後には打ち取ってしまう。彼はどんな状況でもベストな投球を再現できる。ベースボールをしっかりと考えて、感じ取れているんだ」
2年目のジンクスを感じさせず、我が道をまい進する今永。彼の力任せではない、どこか哲学的な投球が、米球界を席巻しようとしている。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]
【関連記事】日本で痛打されたのになぜ? 今永昇太の“高めの直球”がMLBで異彩を放つ理由 背景にあったバウアーの「逆説」
【関連記事】今永昇太、再びの快投でエースの地位確立 衝撃の防御率0点台の左腕に止まぬ称賛「野球界で最高の投手の一人」
【関連記事】米球界席巻の“魚雷バット”はなぜ生まれた? 開発者が誕生秘話を告白「選手は投手の質向上に不満を覚えていた」






