「泣くな!」“負けたら終わり”の日々は、神童をどう変えたのか 恐怖と葛藤を抱えた那須川天心が師匠と歩んだ茨の道「病んで、どうしようもない時もあった」
エストラーダの心も身体もへし折った天心。そのパンチは威力を増していた(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext
徹底的に鍛え上げられる中で「生き甲斐」を見出した
ポッキリと心がくじけてもおかしくはなかった。おそらく「これ以上は無理かもしれない」と思う日もあったはずである。そんな葛藤の日々にも「やっぱ人は何かになりたかったら、狂気にならないと絶対にいけない時がある」と本人の覚悟はブレなかった。
だが、勝ちに心の底から飢えていた天心にとって、葛西トレーナーによるスパルタ指導の効果は抜群だった。
徹底的に鍛え上げられる中で「生き甲斐」を見出したという27歳は、序盤に出方を伺っているエストラーダに対して、葛西トレーナーが「自分も落とされそうになった」と舌を巻いたボディを炸裂。動きの中で、スッと踏み込んで打つパンチの強度は、これまでとは一変。いわゆる手打ちではなく体重の乗った威力のあるものとなった。
持ち前の俊敏性を利したフェイントを入れながら、左右の揺さぶりもかけた。4回から距離をグッと詰め、反撃を狙った百戦錬磨のレジェンドは、打ち終わりを狙ったノーモーションの右カウンターで逆転を狙った。しかし、「普段だったらそこで引いていた」という天心は、守勢に回ることなく応戦。「やっぱ練習で、ずっと葛西さんだったり、会長だったり、チームでしっかりと今回はしっかり、ガードを固めて、前に出るときも考えてやった」と真っ向から対峙し、凌駕した。
起死回生の反撃も実らず、次第に防戦一方となっていく中で、焦るように前に出たエストラーダにとって、天心が「練習から倒れるパンチ、これだったら効くっていうパンチがたくさんあった」と自画自賛した波状攻撃は想像以上の破壊力を持っていたはずである。実際、強烈なボディで肋骨を2本も折られた百戦錬磨の元世界チャンプは、自らセコンドに「棄権」を訴えた。相談を受けた陣営が「もうこれ以上続けるのは止めよう」と決断した頃には、すでに心は折れていた。
「相手はエストラーダですからね。彼も調子は悪くなかった。それでも圧倒したんで、今日は合格点じゃないですか?」
パンチの極意を叩き込んだ葛西トレーナーの言葉は、天心が繰り広げた戦いの内容の濃さを物語るようでもあった。







