物議を醸した早田ひなvs張本美和の“メディカルタイムアウト” その真相
なぜ運営側のドクターがいたのに、早田のコーチに手当てをさせたのかと大会運営側を批難する声も聞かれるが、これもお門違いである。MTOの際に手当てを担当する人についてルール上の規定はない。規定がない項目については審判長の裁量に任される。MTOの目的は、最良の治療をして選手の健康を守り、試合を継続させることにあるのだから、普段からその選手を診ている人がその場におり、選手本人もそれを望むなら、その人に任せることが最良であると当然の合理的判断をしたまでである。
同士討ちのときにベンチコーチを入れないなどというのは、ルールではなく選手やチームが勝手にやっていることなのだから、審判長がそこまで考慮して不公平感をなくすべく岡氏の手当てを認めるべきではなかったなどと言えるはずもない。
要するに今回の騒動は、誰にも不正もミスもなく、ただ卓球界の慣習が招いた想定外の不公平だったということである。実際、もしも張本のベンチにコーチがいてじっくりとアドバイスを受けていたなら、張本は不満も疑問も口にすることはなかっただろう。この機会に、この特に必然的とも思えない慣習をこそ見直すべきである。
なお、早田がMTOをとったタイミングが都合が良すぎたという声も聞かれるが、ルール上許された権利を行使することに問題はないし、当の張本自身が「メディカルタイムアウトを取ることに関しては私にも権利があるので、相手にも権利があると思いますし、全く意見はないです」と語っているのだから、この点をあげつらうことは早田はもちろん、あたかも張本までが早田の不正を疑っているかのような印象につながるので、厳に慎むべきである。証明も反証もできないことをあれこれ論じることに意味はないし、誰にとっても何の益にもならない。繰り返すが、張本はそんな主張はしていないのだ。
MTO後に流れが変わったと言っても、4-4の後、6-6、7-7と推移したのだから激変したわけでもない。そして何より、早田のプレーは試合全体を通して、攻撃の鋭さ、鉄壁のカウンターブロックともに怪我をしているとは思えないほど(皮肉なことに)素晴らしく、明らかに張本を上回っていた。ゲームカウントが2-2となった時点での両者の総得点が早田42-張本36だったことにもそれが現れている。早田はまさに勝者に相応しいプレーをしていた。
早田は準々決勝で世界ランキング3位の陳幸同(中国)に2-0とゲームを先取したが、惜しくもそこから逆転されて2-4で敗れた。これも世界第一級の素晴らしい試合だった。
[文:伊藤条太(卓球コラムニスト)]
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