誰もが信じたエースの涙 「最後の1点」を決めるために、石川祐希は代表の中心であり続ける【パリ五輪】
第1セット7-7の場面で、この試合最初のサーブ順が石川に巡ってきた。1本目から低い軌道で攻めたサーブが相手のレシーブを崩し、返ってきたチャンスボールをセッターの関田誠大はバックセンターの石川に上げ、叩きつけた石川が右手を掲げ、何度も吼える。8-7とリードし、続く2本目のサーブもイタリアのディフェンスを崩し、今度は空いたスペースにまたもバックセンターから石川が絶妙なフェイントを決める。この2本を見るだけで誰もが「石川はもう大丈夫だ」と確信するには十分な姿を見せつけた。
とはいえイタリア代表にとって、9シーズンイタリアでプレーする石川は日本代表で最も知られた選手であり、最も警戒を必要とする選手だ。サイドアウト、ブレイクを問わず石川を常にブロックが警戒、決して楽な状態ではない中、何度もそのブロックを打ち破って見せた。
1次リーグの最終戦ではポーランドに対して完璧なバレーを展開し、1位通過のイタリアを第1セットは圧倒し、25-20で先取し、第2セットも最大で4点あった点差をはね返し、21-23からの4連続得点で連取。この最後の1本を決めたのも石川だった。
だからこそ、誰もが信じた。第3セット24-21、日本のマッチポイントで、イタリアの攻撃で1点を返されるもなお24-22。サーブレシーブからのトスはきっと石川に上がる。そして決めてくれる。だが、ブロックも当然予測し、コースを塞がれた中で放ったスパイクはサイドラインを割る。その後、冒頭の逆転シーンへとつながり、3、4、5セットを逆転で失った日本はつかみかけていた準決勝進出を逃した。
試合後、インタビューに応じた石川は赤い目のまま責任をすべて自分に向けた。
「最後の1点を僕が決められなかった。キャプテンとして、1人のエースとして力不足でした」
勝てると確信すらした場面があったからこそ、悔しさは募る。だが間違いなく言えるのは、石川がいなければこれほどの試合、イタリアにも「勝てる」と希望を抱く試合はできなかった。何年もかけて強くなった日本代表の中心は間違いなく石川だった。
今大会限りで退任するフィリップ・ブラン監督を胴上げで送り、金メダル獲得という夢が潰えた日本代表は新たなチームとなりロサンゼルスオリンピックに向けてスタートする。
どんなチームになるのかはわからない。言えるのは、たとえ監督、メンバーが変わろうと日本代表の中心は石川だということ。決められなかった1本の借りを返すのは、4年後、オリンピックのコートであるはずだ。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]
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