少年時代のコンプレックスが原点 ボクシング・八重樫が崖っぷちで燃える理由

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下を向いている時間が長かったけど、どこかでひっくり返してやるという思いはあった


 スーパーフライ級で日本人初の4階級制覇を目指す八重樫東(35=大橋ジム)が26日にインドネシアのフライ級王者フランス・ダムール・パルー(34)と対戦する再起戦に向けての胸中を語った。

 ライトフライ級から(体重48.988kg以下)からスーパーフライ級(52.163kg以下)への転級。「減量のストレスがないのが楽ですね。これだけ楽だと相手も同じ条件だから不安になる部分もありますが。減量する最後に水を抜くと体の中の細胞が壊れるんですよ。それが嫌だった。体重を落とさなけれればいけない時間を練習に打ち込めるのは大きいです」と確かな手ごたえを口にした。

 昨年5月、1回TKО負けしてIBF世界ライトフライ級王座から陥落した。年齢も若くない。限界説もささやかれた。当然八重樫の耳にも周囲の声は入ってくる。声を大にして反論するわけではない。穏やかな表情で言葉を並べた。「この前の試合を見てもう限界と判断するのは早いんじゃないかと。ダメージが蓄積した要素はあると思う。でもそれを覆したいという思いは当然ある。リングで証明したいですよね」

 下馬評が低いほうが燃える。八重樫の性格は少年時代が色濃く投影されている。「僕は体が小さくて劣等感の塊だったんです。身長が小さくて小6まで背の順は1番前。中学に入学した時も132センチしかなかった。勉強できないしスポーツもうまいわけではない。母親が言うには『どうせ僕なんて…』が口癖だったらしいです。自分でも覚えています。端っこにいるのが居心地いい。自分を否定してしまうんですよ」と振り返る。ただ自分に自信がない少年は内にほとばしる闘志があった。「下を向いていたけど、どこかでひっくり返してやるという思いはありました。自信がないから積み上げるしかないんです」。バスケ部だった中学時代、毎朝一番乗りで体育館で練習をしていた。

 コンプレックスの強さは3階級王座になった今も変わらないという。「高校で全国チャンピオンになったけどその後の東北大会で負けて、こんなもんなんだなと。自分が強いなと思う時がなかった。チャンピオンになったのもマッチメークした会長やジムのおかげ。周りに恵まれているだけなんです」と屈託なく話す。

 八重樫は小学生の時、愛読していた人気バスケット漫画「スラムダンク」の宮城リョータにあこがれていたという。身長はないがスピードと気の強さで相手に立ち向かうプレースタイル。「偶然ですけど、宮城リョータが好きだったのが彩子さん。自分の妻も彩なんです。ああなれば幸せですね」と話す。現役生活が長くないことはわかっている。でもまだ輝き続けたい。「小さくてもやればできるというのを見てもらいたい。ヒーローもので緑レンジャーが好きなんです。ウチのジムだと赤レンジャーは井上尚弥。黄レンジャーは清水(聡)かな。緑は地味だけどたまに活躍する。それでいいんです」。謙虚で誰からも愛される男がリングで己の力を証明する。


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[文/構成:ココカラネクスト編集部 平尾類]

八重樫 東(やえがし・あきら)

1983年2月25日、岩手県北上市生まれの35歳。拓殖大在籍時に国体でライトフライ級優勝。アマチュア戦績は70戦56勝(15KO)14敗。卒業後に大橋ジムに入門。元WBA世界ミニマム級王者、元WBC世界フライ級王者、元IBF世界ライトフライ級王者と世界3階級制覇を成し遂げる。スーパーフライ級で日本人初の4階級制覇を目指す。身長162センチ。右のボクサーファイター。

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