「サッカーが難しい、しんどい」柿谷曜一朗の発言に共感する人も多いのでは?“息苦しさ”のある現代サッカーにドロップキック!
だが、あの発言は特別ではないし、天才の秘め事でもなかった。柿谷は言いにくい普通のことを言っただけ。選手の多くが感じている、普通の感覚を、火の玉ストレートで。最近のサッカーが少し寂しく、虚しく思えてしまう嘆きだった。
しかし、「現代サッカー」が常に変わり続けるのも確かだ。
監督の戦術が色濃く反映されたポジショナルなサッカーは、機能美を感じさせる。しかし、構造があるだけに分析されやすい。実際に昔、あるJクラブの分析担当者は「構造のあるチームは分析しやすい」と語っていた。その可変や手札をどれだけ増やしたところで、イタチごっこの末に捕まっていく。
逆にそうした構造が緩いチームほど、同じ状況でも選手のアイデア次第でいつも違う判断に至るため、分析泣かせであると。だからと言って、構造が何もなく、選手が好き勝手にプレーするだけの無秩序なチームは隙だらけで弱い。これも確かだ。
そこで最近はポジショナルな構造と、リレーショナル(相互関係的)な選手の創造性をミックスさせるアプローチが再評価されている。別段、新しいことではない。レアル・マドリーを指揮するカルロ・アンチェロッティは、随分前からその志向でチーム作りを行ってきたし、遡ればヨハン・クライフがプレーした1970年代のオランダ代表もクライフの自由な発想に呼応して味方が動くことで、構造の安定性と、予測不可能な連係を生み出していた。身近な例では、トップ下に乾貴士が立つ清水エスパルス、中盤に鎌田大地が入った森保ジャパンもそれにあたる。
類まれな能力を持ったクリエイティブな選手と、ロジカルに構造を理解してチームを支える選手。言い換えれば、7割の選手と3割の選手をどうミックスさせ、どう伝えて、チームとして成立させるのか。それはちょっと、わくわくする。
柿谷曜一朗。若い時期は人間的な成長を促してくれた指導者と共に、そして晩年は現代サッカーに抑圧され、息苦しさを隠さず、35才で現役を終えた。「サッカーが難しい」「サッカーがしんどい」。彼のようなタイプに、そう思わせずチーム作りを進められる指導者が、これからは重宝されるのではないか。これは半分、願いでもある。
[文:清水英斗]
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