CRPSという病気をご存知ですか?
患者さんに、「痛くなったきっかけは何でしたか?」と尋ねてみたところ、「打撲しただけです」とのことです。
3か月ほど前に仕事中に物が落ちてきて、左手にぶつかったそうです。2週間ほどしてから徐々に痛みが強くなってきて、じっとしていても耐えられないくらいの痛みになったのだとか。
実はこの女性は近くの整形外科で働いている看護師さんでした。ご自分の勤務先のドクターに最初に診てもらったそうですが、どうして痛いのか理由がわからないと言われたそうです。
そうこうしているうちにも、痛みがどんどん強くなるため、ほかの整形外科でMRIを撮影してみたものの「異常がない」という結果に。
左手が赤く腫れていてたため、「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」という、皮下組織にばい菌が入った病気ではないかと言われたそうです。
ですが、抗生物質を2週間ほど飲んでも一向に良くなりません。
それで私の外来を受診しました。
特に手首や母指球、親指の指腹が痛いのだとか。
確かに右手と比べると左手は手首のあたりが少し腫れていました。また熱を持っているような状態です。さらに良く診てみると、左親指の指紋は薄くなり、消えかけています。
左手は触れるだけで痛いらしく、「腕を切り捨てて、別の腕と交換したいような感覚」だそうです。
さて、みなさんこの方の病気はなんというものでしょう?
この方の病気は「CRPS」とよばれるものです。
正式名称は、「複合性局所疼痛症候群(ふくごうせいきょくしょとうつうしょうこうぐん)」と言います。
英語では「Complex Regional Pain Syndrome」頭文字を取ってCRPSです。
CRPSはいくつかの病的な性質を兼ね備えた、強い痛みの出る症候群です。
その性質とは次のようなものです。
1. 多くの場合、きっかけとなる外傷がある。外傷には、骨折、打撲、捻挫、手術、ギブス固定、神経損傷などがあります。
2. きっかけとなった外傷には不釣り合いな、非常に強い痛みが遷延する(長引く)。CRPSは数か月で治ればましなほうです。多くの場合は非常に強い痛みが数年もの長い期間にわたり続きます。
3. 痛みの性質は、じっとしていても痛い(自発痛)に加え、少し触れただけで痛みが走る(アロディニア)や、ぶつかったりすると耐えられない痛みがでる(痛覚過敏)などが挙げられます。
4. 痛み以外の症状も同時に現れることが特徴です。これには、皮膚の発赤(赤くなること)や蒼白(皮膚が真っ白になること)、皮膚の熱感や冷感、皮下組織の腫脹や皮膚の萎縮、関節の拘縮(固くなって動かなくなること)などが挙げられます。正反対の性質のものが含まれていますが、このように様々な症状が複合的に出ることが特徴です。
5. 4で述べた症状はすべて出るわけでなく、いくつかが組み合わさって出現します。また出現のパターンには個人差があります。さらには同じ人でも時期によって正反対の症状が出ることもあります(最初は熱を持っていたが、数か月して冷感が強くなるなど)
冒頭の患者さんの例ですと、まずきっかけとなった外傷(この場合は打撲)があり、それに不釣り合いなほど強い痛みが出ています。触れるだけで痛い(アロディニア)もあります。
さらに皮膚が熱く感じたり、見た目が赤くなったり、また指紋が消えかけているというのは皮膚が萎縮しているサインです。このようにいくつかの皮膚の変化を伴っているため、CRPSと判定できます。
一般的には、「けがをした後に尋常でない痛がり方をする状態が続いていたら」CRPSを疑うべきです。
CRPSは見過ごされてしまうこともままある病気です。
つまり、ほかの病気と勘違いされたり、たいしたことないのに騒いでいる、などと片付けられてしまうことが多いのです。
冒頭の例でも「原因がわからない」とされたり、「蜂窩織炎ではないか」と誤った診断をされてきたことが見受けられます。
そして診断が遅れれば遅れるほど、治療が遅くなり、その結果として後遺症が残りやすくなります。
ですから、CRPSはすぐに診断をして、積極的に痛みをとってあげなければならない疾患なのです。そして関節が固まらないようにすることが重要です。
CRPSにかかる年齢は40-50代以上の方が多いです。
しかし注意が必要なのは、10代の子もこの病気になるということです。このことは最近になって知られはじめ、注目されるようになったばかりですから、お医者さんでも知らない人が多く、見落とされてしまうことも多々あります。
成人では腕や手に症状が出ることが多いですが、10代の子の場合は足や膝に症状が出ることが多いです。
それでは、いったいこの病気の原因は何なのか?何が起きているのか?については次回解説しましょう。
[文:オクノクリニック | モヤモヤ血管による慢性痛治療]
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