両ひざ血だらけ、逆走…それでも届けたい「タスキの重み」
各方面の声
SNSでは「感動した」、「執念がすごい」、「涙が止まらない」、「つなぎたい気持ちが痛いほど伝わってくる」という声の一方で、「こんなもんを美談にするな」、「選手の将来を考えてないのか」、「ドクターストップをかけるべき」、「監督、主催者は何をやってるんだ」と運営面を疑問視する声が相次いだ。
著名人もテレビやSNSを通じてコメントを出している。
◆箱根駅伝で4連覇した青山学院大の原晋監督
「私だったら止める。タスキ渡しまで、まだまだ何百メートルあった。駅伝の光と影が見えましたね。『光』は仲間の絆。『影』はここまでやらなきゃいけないのか、というね。こういったトラブルが発生するということが、大前提として想定されていない。そろそろ、申し合わせ事項というものを作らなければいけない時期にきている」
◆元マラソン選手の千葉真子さん
「個人競技なら、即刻審判も止めていたと思いますが、タスキの重みですよね。ランナーにとっては心をつなぐ駅伝なので、そこで自ら判断するというのは非常に難しい。2020年に向けてもルール改正をする必要がある」
◆タレント・フィフィ
「選手自らは棄権を申し出ないからね。それを根性あるとか美談で評価するのは今後の彼女のためにも、他の選手のためにも良くないんじゃないかな。ケガしてまでやるのが駅伝なんだよってプレッシャーかけてしまうようで、スポ根も行き過ぎるとパワハラの温床になるからね」
◆美容外科・高須クリニックの高須克弥院長
「(レースをテレビ観戦して脛骨=けいこつ=の疲労骨折だと視診でわかったが)僕なら選手の闘志を尊重してドクターストップはしない。選手の精神力と義務を果たす姿勢に敬意を表します。レースをあきらめず全力を尽くす姿勢は感動的です」
今大会、選手を止める権限は当該選手の指導者にあったようだ。
悲劇を生んだタイムラグ
岩谷産業の広瀬永和監督(53)はレース当日、監督室でライブ映像を確認し、飯田選手が倒れているのを見て「大会役員に『やめてくれ』と言いました。あの状況をみたら、どの指導者でも止める」。
広瀬監督はアテネ五輪女子マラソン金メダリストの野口みずきの指導者としても知られる。13年8月、世界選手権モスクワ大会の女子マラソンに出場した野口を、29キロ地点で止めた経験もある。「脱水症状でフラフラになって、これはだめだと思った」。五輪後は苦闘続きだった野口が復帰レースにかける思いも知りながら、安全面を最優先した。
今回、広瀬監督の「やめてくれ」という意向は届かなかった。大会主催者側から「監督の意図がコース上の選手に伝わったのが、中継地点まであと15メートルだったので、(選手についていた大会役員は)見守ってしまった」と説明を受けたという。
連絡面でタイムラグが発生し、結果的に飯田選手を止めることができず「スムーズに伝わる形にしてもらわないといけない」と広瀬監督は改革の必要性を強く訴えた。
テレビ映像からは「あと70メートル、俺は行かせてやりたい」と飯田選手について歩いた大会役員が励ましたと思われる声も聞こえてくる。主催の日本実業団陸上競技連合の西川晃一郎会長は「今まで以上に選手の安全を第一に考えた大会運営を実施する。レース中の連絡方法などを検証し改善策を講じる」とコメントを発表した。
同じレースで他にもアクシデントが…
このレースでは他にもアクシデントがあった。
次の第3区で、トップを走っていた三井住友海上の岡本春美選手(20)が、脱水症状でフラついて逆走。まともに歩くこともできず、最後は道端の草むらに倒れこんで棄権した。この日、福岡・宗像市の気温は20度、風速3メートル、湿度46%。条件的に過酷とはいえないだけに、猛暑下での開催が予想される2年後の東京五輪に警鐘を鳴らす大会でもあった。
ルール改正は避けられない流れだ。
「監督と主催者の連絡方法」「足の裏を接地して走ることができない場合、または脱水症状などで明らかにフラついている場合は、指導者の意向にかかわらず、主催者権限で失格にできる」などが話し合われることになるだろう。命に関わるかもしれないアクシデントの再発はなんとしても防ぐべきだ。
※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。