時間を要した1軍での“復活” 「強く投げられない」と悩んだ怪腕・高橋遥人が歩んだ一進一退の日々に何があったのか【阪神】

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モチベーションになった「進化を遂げての復活」

 入団以来、リハビリに費やす時間も多く、肉体強化に関しては様々な取り組みを行ってきた。昨年には陸上の専門家に弟子入りして走り方を見直した。そんな中で今まで手をつけていなかったのが、筋力アップを目的としたウエートトレーニングだった。

 着手する上で、平均球速を向上させてカムバックするという、ただの復活ではなく「進化を遂げての復活」がモチベーションになった。「懸垂も今まで2、3回だったのが、10回以上できるようになりました」と語る高橋の身体は、動画による研究も重ねて実践していくごとに胸板が厚くなり、腕も太くなった。両手にも無数のマメができた。身体が一回り大きくなった頃には投球面も前進するようになった。

 迎えた6月18日の2軍での復帰戦。直球の球速は自己最速にあと1キロに迫る151キロを計測するなど成果がいきなり感じられた。そして、1軍昇格への最終テストとなった7月2日のソフトバンク戦(2軍)では宝刀のツーシームの状態が「最悪」だった中で、直球主体の投球に切り替えて5回無失点。試合後、「直球に助けてもらった」とグレードアップに成功した“真っすぐ”に確かな手応えを掴んだ。

 ここまで1軍では3試合に登板して1勝、防御率2.04と安定感を示し、全登板で5回以上を投げている。序盤に失点しながら立て直して今季初勝利をマークした7月27日のDeNA戦後には、藤川球児監督も「先発投手は1回の立ち上がりどうしても重たくなったりするんですけど丁寧に投げながらアウトを重ねて2回で軌道に乗るということができることは先発として力がある」と自力を称賛。才木浩人、村上頌樹、大竹耕太郎、ジョン・デュプランティエ、伊原陵人、伊藤将司と6人が揃っている1軍の先発陣に高橋が加われば、質と量ともに完全無欠のローテーションが完成する。

 そして、高橋の復活に活力をもらっているのは、2軍でともに汗を流した若手たちである。入団1年目の昨年に右肘のトミージョン手術を受けた下村海翔は同じリハビリ組で多くの時間をともにし、ウエートトレーニングに励む姿を間近で見てきただけに「高橋さんはウエートとかはあんまり好んでやるタイプではなかった、と言っていて。やるって決めてからのやり切る能力はすごいお手本になる」と刺激をもらった。同じく左肩の故障などでリハビリ期間の長かった伊藤稜も「全部やり切る姿を見てました」と、その背中を追いかけている。

 背番号29が1軍のマウンドで腕を振ること、勝利をつかむことが、チームに数多の相乗効果を生み出す。幾多の苦難を乗り越えてきたVの使者が、頂点へ疾走する猛虎をさらに勢い付かせるのは間違いない。

[取材・文:遠藤礼]

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