「追いつけなかった」――ドネアも訴えた井上尚弥の“恐ろしさ” タパレスに残った痛々しい傷跡に再認識した異能さ
興味深いのは、井上のパワーではなく、スピードを強調したことだ。昨年6月に怪物との2度目の対戦を終えたノニト・ドネア(フィリピン)も同様の感想を口にしていた。
ドネアもまた戦前に勝利へ自信をむき出しにしていたが、蓋をあけたら2回TKOで敗戦。試合直後には自身のインスタグラムで、敗戦の瞬間を生々しく振り返っていた。
「パンチが直撃した時、何が起こったのか分からなかった。カウンターを狙っていたのもあるが、パンチが見えなかった。気づいたときにはキャンバスに倒れていた。そしたら審判がカウントしているんだ。『どういうこと?』って感じだった。コーナーを見たら妻が『手をあげて! カウントされているわよ』と言っていた。『マジか! 俺はやられたのか』と思ったよ」
百戦錬磨の名手が腰を抜かすほどの目にも止まらぬ速さで、ハードパンチを打ち込まれていく恐怖。それがわずか18フィートのリング内で繰り広げられていると思うと、ただただ愕然とするしかない。タパレスが「強かった」と漏らすのも無理はないのだ。
試合直後にSNS上では「苦戦」の声も上がった今回の決戦。しかし、筆者の目には井上の磨き抜かれた強さだけが色濃く残る一戦だった。この男の進化は一体どこまで続くだろうか。
[取材・文/羽澄凜太郎]
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