ボクシング界の想像を越える井上尚弥の“大谷級の価値” 米メディアによる日本開催への批判はお門違いではないか
タパレス戦では圧倒的な強さで制した井上。今も敵なしの強さを誇る彼に対してはさまざまな意見が飛んでいる。(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext
井上の強さはもはや説明不要
仮に20年前に「日本人が4団体統一王者になるし、そいつがパウンド・フォー・パウンドでも1位になる」と言えば、おそらく多くのファンや関係者に鼻で笑われていたはずだ。当時のボクシング界で誰も成し得ていなかった偉業を、ましてや日本人がやってのけるなど想像できなかったからである。
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しかし、井上尚弥(大橋)は「想像」を越えた。22年11月にバンタム級で4団体統一王者となった“怪物”は、勢いそのままに翌年1月に転級したスーパーバンタム級も“完全制覇”。史上最速で2階級での4団体統一をやってのけ、リング史に名を刻んだ。
井上の強さはもはや説明不要。積み上げてきた実績を見れば一目瞭然であり、世界的に見ても怪物的な存在だという認識が広まるのは必然だった。
だからこそ、巷を賑わせる論争を生み出した元世界王者の言葉には、いささか驚かされた。現地時間4月12日に、米ボクシング専門YouTubeチャンネル『ProBox TV』に出演した元世界ウェルター級王者2団体王者のショーン・ポーター(米国)氏が、「彼がいわゆるボクシング界で、世界最高のスターになりたいならこっち(米国)での試合が必要だ。ボクシングでは海を渡り、アメリカに来て、アメリカ人を倒して、ファンに注目してもらわなければならない」と論じたのだ。
ポーター氏の言葉はSNSを中心に広く拡散された。無論、彼に異議を唱える声もあったのだが、それと同等、あるいはそれ以上に井上の「アメリカ進出」を求める声が目立った。ボクシング専門サイト『Boxing News24』は「イノウエの才能のない無名選手との対戦癖は、彼がアメリカで戦い、レベルの高い相手と対戦しない限り、スターになる助けにはならないだろう」とまで酷評した。
批判的な人々の言い分は、つまり「ボクシングの本場に来て、防衛してこそ一人前」というものだ。たしかに井上がアメリカで試合をしたのは、コロナ禍によって無観客の中で実施された21年6月のマイケル・ダスマリナス(フィリピン)とのWBA・IBFバンタム級タイトルマッチが最後。そこから彼は5戦続けて日本で興行を実施している。時差も考えると、一部のアメリカ人識者やファンが井上を遠い存在であるかのように感じてしまうのかもしれない。
だが、そこには日本開催をするべき理由がいくつかある。とりわけ強調すべきなのが、井上の興行が秘めている大きな収益性だ。
実際、昨年7月に行われたスティーブン・フルトン(米国)戦は凄まじかった。両陣営の合計で約10億円という軽量級史上最大のファイトマネーを捻出。当時「難攻不落」と言われた王者がわざわざ日本に出向くだけの価値がそこにはあったのである。
来る5月6日に東京ドームで行われる井上とルイス・ネリ(メキシコ)の一戦も、大きな収入が見込まれている。
米興行大手『TOP Rank』のエバン・コーン氏によれば、放映権料を含めたゲート収入は2800万ドル(約42億8400万円)に達すると見込まれているという。これは昨年4月に米ラスベガスで実施されたガーボンタ・デービスとライアン・ガルシア(ともに米国)の試合のそれ(2280万ドル=約34億8840万円)を凌駕する規模で、井上は“本場”にいかずとも十分な価値を見出しているわけである。