井上尚弥はなぜ「最強」なのか “天才アマ”が語った高3の衝撃「これは彼と“やった奴”にしか分からない」
先のネリ戦でも終わってみれば、3つのダウンを奪って快勝した井上。(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext
若き日のモンスターに見た「恐さ」
アマチュア時代から異彩を放っていた。そんな当時の井上を「あのレベルの選手は他にいなかったですねぇ」としみじみと振り返る須佐氏は、「これは彼と“やった奴”にしか分からないと思うんですけど……」と切り出し、こう続ける。
「一般的に見れば、一撃で倒せるというパンチ力が一番の魅力というか、強みに映るのでしょうけど、自分はやっぱり、あの距離で、あのパンチを打てるところが、他の人にないところだと思います。それってのはやっぱり怖いですよ」
かく言う須佐氏も技術力は確かだ。2012年に出場したロンドン五輪では、後にWBO世界フェザー級王者となるロベイシ・ラミレス(キューバ/現WBC同級2位)に判定の末に敗れたものの、確かに渡り合っていた。ちなみにこの大会でラミレスは金メダルを獲得している。
そんな世界も知る“天才”は、若き日のモンスターに見た「恐さ」を詳細に説明してくれた。
「ほとんどの選手が最初は警戒しながら少しずつ手を出していくんです。それでも、どんどんとラウンドを重ねる中で、徐々にパンチが出なくなってくる。それで『どうしよう』ってガードはするけど、井上選手はパンチが強いからダメージは蓄積する。それで『ヤバい』ってなって前に出たところで倒されてしまう。ここ何試合かは明らかにそういう何もできない流れが出来ている。これは本当に凄いことなんです」
井上ほどの知名度を誇る選手であれば、相手に警戒、もしくは分析をされるのは必然。実際、昨年12月のマーロン・タパレス(フィリピン)戦では、ラウンド途中にL字ガードを用いた難敵を攻めあぐね、本人が「危なかった」と振り返ったカウンターを受ける場面もあった。
それでも井上は数多の名手の防御をこじ開けてきた。「ボクシングはガードして攻撃か。先に攻撃するかなんです。なので、その中でも主導権の握り方からして井上選手は違うんです」と熱弁を振るう須佐氏は、現在に至るまでの成長に目を見張る。
「ジャブからの右ストレートとかは誰もが怯んでしまう。大体の選手は戦って、齢を重ねる中でスタイルなんかがブレるんです。でも、彼はコツコツとジャブも磨いてきている。そうしてブレないことで、どこからでも砲弾のような一撃を打てるようにもなっている。これは本当に他の選手じゃ、なかなか出来ないと思います」
天井知らずで進化を続ける偉才が一線を画すワケを語ってくれた須佐氏。約40分に渡った取材の最後に彼は「今、相当強いと思いますよ。僕は絶対受けたくないですね。8オンスでなんて(笑)。それぐらい彼は違います」とボソッと口にした。
この何気なく漏れた言葉に、井上が“怪物”と言われる理由が集約されているように思えた。
[取材・文:羽澄凜太郎]
【解説】須佐勝明(すさ・かつあき)
1984年、福島県生まれ。会津工業高校から東洋大学へ。2012年、自衛隊体育学校所属時にロンドン五輪に出場。ロンドン五輪ミドル級金メダリストの村田諒太は東洋大学の1学年後輩にあたる。株式会社AYUA代表取締役。日本ボクシング連盟理事。日本オリンピック委員会ハイパフォーマンスディレクター。SUSAGYM会長。アジアコーチ委員会委員長。共同通信社ボクシング評論担当。会津若松市観光大使。ほか。
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