井上尚弥の“パッキャオ超え”は可能なのか 怪物の言葉から紐解く実現性「ボクシングをやっている理由はお金じゃない」【現地発】

タグ: , , , , , , 2024/12/31

日本から世界へ羽ばたき、激闘を繰り広げてきた井上。その強さにはロマンがある。(C)TakamotoTOKUHARA/CoCoKARAnext

パッキャオに近づくかもしれない「ほぼ唯一の可能性」とは――

 ほぼ唯一、可能性があるとすれば、一時期、一部のファンから期待された無鉄砲な昇級によるメガファイト路線を進んだ場合か。

 具体的にはライト級あたりまで階級を上げ、ジャーボンテ・デービス(米国)、シャクール・スティーブンソン(米国)といった米国の無敗王者たちを圧倒的な形で連破すればインパクトは大きい。その時には実力評価の面で本当にパッキャオに近づくかもしれない。

 ただ……、階級越えファイトは、すでに議論され尽くした話で、2025年を前にして、もう話題になるべきだと思わない。それは他ならぬ井上自身がその現実性、可能性をはっきりと否定してきたからだ。昨年2月の単独インタビューの際、モンスターは筆者にはっきりとこう語ってくれた。

「一番強い自分、『ベストの井上尚弥』というのを常に見せていきたいんです。ファイトマネーが高いからって、フェザー級、スーパーフェザー級でやるのかといったら、それはまた違う。それを追い求めていってパフォーマンスがまったく出せず、終わっていった選手はいっぱいいるじゃないですか。ボクシングをやっている理由はお金じゃなく、自分がどう満足するか、どれだけベストが出せるかっていうところなので」

 違う階級の難敵を追い求めるのもロマンの1つ。だが、最善の環境で最高の作品を追求するという職人的な姿勢はリスペクトできる。周辺階級にバレラ、モラレス、マルケスのような選手が存在しなかったのはやはり不運ではあったが、井上は適正階級の中で自身を研ぎ澄ませるという作業を丁寧に続けてきた。2025年以降もそのポリシーを貫き、キャリア終盤を疾走して欲しいと切に願う。

 繰り返すが、現代に生きる私たちが孫の代まで語り継ぐのであろう“井上尚弥の時代”はもう終盤に差し掛かっている。アメリカでは依然として待望論があるが、キャリアのこの時点でメガファイトを目指しての階級越えが期待されるべきではない。

 それよりも、来年1月24日に延期されたサム・グッドマン(豪州)戦後、ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)、中谷潤人(M.T)、そしてフェザー級の王者たちといったすぐ近くの階級の好選手たちとしのぎを削る最強王者に、私たちは感謝すべきに違いない。

 そんな真摯な姿勢をこれまでも保ってきたがゆえに、モンスターはモンスターであり続けてきた。だからこそ、百戦錬磨のデュボフ社長をして「これまで見た中で最高のボクサー」と評するほどの傑作が形作られてきたに違いない。

[取材・文:杉浦大介]

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