井上尚弥はなぜアフマダリエフを“支配”できたのか? 不気味な自信が漂う敵陣営の「狙い」を凌駕した異常なる進化
アフマダリエフを完全に支配し、圧倒した井上(C)産経新聞社
相手の智略を越えた技
モンスターは、やはり強かった。
9月14日、名古屋のIGアリーナで行われた世界スーパーバンタム級4団体統一タイトルマッチ12回戦で、統一王者の井上尚弥(大橋)は、WBA世界同級暫定王者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)と対戦し、3-0の判定勝ち。「過去最強」と目された難敵を技術力で圧倒した。
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「自分も自分に期待したい」――。前日計量を終え、滾る想いを抑えるように静かに語った井上は、判定決着でもいいという意図を表現するように慎重にアフマダリエフと対峙した。
そして、静かな立ち上がりとなった中で、的確なジャブと華麗なステップワークで「過去最強」と位置付けた挑戦者を翻弄。機を見ては、ボディへ執拗なラッシュを打ち込んで完全にペースを支配。最後まで相手に付け入る隙を与えず、冷静に攻め続けた。
もっとも、アフマダリエフ陣営には「打倒・井上」に向けて相当な自信があった。トレーナーを務め、今年5月に井上からダウンを奪ったラモン・カルデナス(アメリカ)も指導していたジョエル・ディアス氏は、試合前に米誌『The Ring Magazine』で、戦略の一端を語っていた。
「カルデナスは井上に5ラウンドの好勝負を挑み、良いパンチも当てた。しかし、現実問題として、カルデナスにはMJ(アフマダリエフの愛称)ほどの経験がなく、井上クラスの選手と戦ったことがなかったんだ。MJはカルデナスよりも強く、速く、そしてボリュームも豊富だ」
「井上は手数が多い。良いパンチで相手を捉え、痛めつけ、確実にフィニッシュしなければならないことは分かっている。だが、MJはフィニッシュの仕方を知っており、強烈なパンチを繰り出せる。重要なのは、適切なタイミングを見極め、攻撃で圧倒して井上に回復のチャンスを与えないことだ」
井上が打ち出た瞬間を見逃さずに一気呵成に攻め落とす――。愛弟子の一人であるカルデナスにできなかったフィニッシュワークをアフマダリエフなら「できる」という考えだった。
しかし、井上はカルデナス戦から今回の防衛戦に向けて計120ラウンドに及んだスパーリングを重ね、相手の智略を越える技を身に着けた。カウンターの布石を打ちながら、的確な距離感を保ち続ける“アウトボクシングスタイル”を見事に完遂したのである。






