アフマダリエフ戦が“塩試合”にならなかった凄さ 元世界王者も驚く井上尚弥の底知れぬ潜在能力「あの男は本当に別格」【現地発】

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信頼の厚い真吾トレーナーと構築したスタイルには米国内でも評価が高まった(C)Getty Images

ピカソ戦、そして中谷とのビッグマッチで望まれる戦い方は?

 アフマダリエフ戦の直後、井上は12月27日にサウジアラビアでアラン・ピカソ(メキシコ)との次回防衛戦の実施がすでに発表されている。その一戦もクリアすれば、いよいよ来春に中谷潤人(M.T)とのスーパーファイトが視界に入ってくる。ここでの注目は、井上がどんなスタイルで試合に臨むか、である。

 32勝(17KO)1分という立派な戦績を持つ25歳のピカソだが、まだトップランカーの称号に見合った力強さは感じさせていない。7月の前戦でも亀田京之助(MR)に手を焼き、2-0の判定勝ちにとどまった。ルイス・ネリ(メキシコ)、ラモン・カルデナス(アメリカ)のようなパワー、タパレス、TJ・ドヘニー(アイルランド)のような経験も持たないだけに、井上を警戒させるファクターには乏しい。2025年は4戦目となる王者が早期決着を狙い、ある程度、強引に攻めても突破できる挑戦者であるようにも思えてくる。

 とはいえ、直後に中谷戦が控えているだけに、“モンスター”ももちろん隙のない強さを改めて見せておきたいと考えるに違いない。

 だとすれば、ピカソ戦も少なくとも序盤はアフマダリエフ戦を彷彿とさせるような軽快なアウトボクシングも展開するのか。その上で中盤以降はよりプレッシャーを強め、ストップに持ち込めば、大一番に向けた期待感はさらに高まるはずだ。そのようにアウトボクシングとストロングスタイルをどのように融合していくのかが、今後の注目ポイントになっていくのだろう。

「イノウエは階級を上げながら進化を続けている。確かにパンチ力や一発のショットは以前ほど見せてないかもしれないが、他の面がどんどん出てきて、複雑さや多層性が見えるようになってきた。彼の父親でもあるチーフトレーナーがいかに優れているかもよく分かる。アフマダリエフを御し、ボクシングの技術で封じて打ち込んだイノウエの能力には本当に感銘を受けた」

 これまで多くのエリートボクサーを見てきたアルジェリがそう感心するほど、井上の持つ潜在能力は飛び抜けている。対戦相手の質が高まるほど、そのボクシングは研ぎ澄まされる。だとすれば、世界待望の中谷戦、さらには“最終章”のフェザー級進出と進む過程で、また段階の違う強さで魅了してくれるかもしれない。そのボクシングキャリアはもう終盤に差し掛かっているはずだが、“モンスター”の軌跡から目が離せない日々が続くことは間違いなさそうだ。

[取材・文:杉浦大介]

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