選抜の柵越え本塁打はわずかに2本… “新基準”の「飛ばない」金属バット導入で今後の高校球界はどうなる

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仙台育英の須江監督が明かした「驚き」

 その一方で違う声が聞かれたのも事実である。

 大会中に試合中継の解説者として甲子園を訪れていた仙台育英の須江航監督と話をする機会があった。そこで名門を率いる40歳の指揮官は新基準の金属バットについてこう答えていた。

「練習試合では広い球場でも柵越えが出ています。だから選抜を見てちょっと驚きました。それだけ投手のレベルが高いこともありそうですし、寒さや緊張も影響しているのかもしれません。あと選抜に出場するチームは細かいプレーの練習をする必要があって、単純なフィジカル面の強化は我々のような出場を逃したチームの方ができたという可能性もありますね」

 筆者も選抜の前後で高校野球の練習試合や公式戦を見たが、確かに選抜ほどの影響は感じられなかった。「打球が飛ばない」という話題が先行し、それが高校球界内で集団心理として働いていた部分もあったはずだ。

 もっとも、現時点で確実に言えることは、ホームランや長打を打つためには、これまでよりもフィジカル面での強化はもちろん、芯でしっかりとボールを捉える技術がより重要になったという点だ。そういう意味ではトレーニング環境や、打撃技術をしっかりと選手に落とし込める指導者がいるチームがより強さを発揮するようになる可能性は高いのではないか。

 過去を振り返ってみても、高校野球は基準の変更直後こそ影響が顕著に表れるが、その後は徐々に各校が適応してくるということを繰り返している。そうした歴史的背景を鑑みても、球界全体が「極端なスモールベースボールに偏る」というのは考えづらい。

 今大会でも見事なホームランを放ったモイセエフ・ニキータ(豊川)や正林輝大(神村学園)のように、夏以降も高いレベルのバッティングを見せてくれる選手が多く出てくることを期待したい。





[文:西尾典文]

【著者プロフィール】

1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。

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