「強いチームは自滅しない」三河リッチマンHCが見据える“常勝軍団”への道 重視する「競争力のある規律」の真意とは

2シーズン目を戦うリッチマン監督はチームの成長に手応えを感じている©SeaHorses MIKAWA co.,LTD.
昨シーズン、長らく指揮を執った鈴木貴美一氏が退任し、NBAのアシスタントコーチ経験を持つ若きアメリカ人、ライアン・リッチマン氏を新ヘッドコーチとして招聘したシーホース三河。
初年度からチームを3年ぶりのチャンピオンシップ(CS)進出に導くなど手腕を発揮したリッチマンHCだが、来日してから2シーズン目となった2024-25シーズンは日本やBリーグの環境にもより順応し、チームはここまで好成績で来ている。
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今回は、オールスターゲームを終えシーズン後半戦に入り、より厳しい戦いが待ち受ける中、リッチマンHCへのインタビューを行った。ここまでのチームの調子や目指しているリーグ制覇へ向けてどのような手応えを感じているかなどを聞いた(インタビューは1月27日に実施)。
ーー30数試合を戦いシーズンは折り返し地点を通過しました。ここまでのシーホース三河の戦いぶりなどについてはどう評価をしていますか?
面白いことに、30試合を終えたところでの戦績は昨シーズンと今シーズンでは21勝9敗とまったく一緒でした。ですが、私としては今シーズンの方がより手応えがあります。それは対戦相手が今シーズンのほうがより強力であるということもあるかもしれませんが、それ以上に私たちのチームの方向性がより明確になっていることがそう感じさせる理由です。なので、私はチームの現状については満足しています。
今シーズン、敗戦を喫した試合は「悪い敗戦」だったわけではありません。そのことは私たちのチームの面々と彼らの仕事ぶりの良さを示していると思います。
ーー昨シーズンとの比較を続けるならば、勝敗だけでなくチームの平均得点や平均失点、オフェンスとディフェンスのレーティング(100ポゼッションあたりの得点と失点)など、多くの数字が非常に似通っています。その中で、今シーズンのチームがどう変化しているのかを教えて下さい。
私の中で一番の違いは日本人選手の幾人かがすばらしいプレーをしていることです。石井選手、角野選手、久保田選手らは本当にいいプレーをしていて、私を驚かせてくれています。彼らの40分あたりの数字を見てもらえれば、彼らの価値がどれだけ高いかがわかります。彼らの働きぶりは、見逃せないほど重要なのです。このことは私にとって喜ばしいサプライズでしたし、私たちのディベロップメントプログラムによって選手たちが正しい方向に導かれていることや、彼らが自身の役割をよく理解できていることを示しています。
ーーチームの日本人選手の顔である西田優大選手は、パリオリンピック出場を逃した悔しさからオフにはトレーニングに励み、一段上のレベルへ上がろうとしているようにも思えますが、いかがでしょうか?
私もそう思います。彼が日本代表でプレーする際、私たちのチームにいる時とはかなり違ったプレーぶりを求められています。代表での彼は「キャッチ・アンド・シュート(パスを受けてすぐに打つ3Pシュート)」をかなり打ちますし、11月のウインドウ(FIBAアジアカップ予選)での彼はチームのベストな選手でした。私たちもそのことについて非常に誇りに感じています。
そしてまた三河に戻って来ると、彼には異なる役割が与えられていますし、プレーぶりは違ったものとなります。彼にとってはプレーのリズムが違います。三河での彼はボールを持つ時間が長くなり、プレーメーカーとしてチームを引っ張らねばなりません。ですが、私たちは彼に大きな自信を持っていますし、彼が成長し続ける姿を見られるのはすばらしいことです。
ーーリッチマンHCが来てからの三河について際立つのが、大きな連敗をしないことです。昨シーズン中、3連敗以上を喫したのは2度のみで、今シーズンはゼロ。週末の2連戦での連敗は昨シーズンは3度で、今シーズンは1度。三河は試合中にせよ、シーズンにせよ、アジャストをするのに長けている印象がありますが、連敗をしない理由にはどんなことがあげられますか?
この指摘はうれしいです。私たちもチーム内で常にプライドを持って戦うことや、2連敗をしないようにしようということは話しています。プレーオフ(チャンピオンシップ)で2連敗をしてしまえばもうそこでシーズンは終わってしまうわけですが、日頃からそうした危機感をチーム内で共有しています。
私たちは試合以上に激しく練習をしますし、試合のように練習をします。ですから、選手たちはアジャストをすることが上手になってきています。もちろん、コーチ陣がアジャストをすることはありますが、それは選手たちがプレーの遂行ができていない時です。しかし、コーチ陣がどのようなアジャストをするかは実はそれほど重要ではありません。なぜなら、プレーを遂行するのは選手たちだからです。
ーー三河が他のチームと少し違うまた別の点として層の厚さがあげられます。そのため三河では平均で30分以上の出場時間を記録している選手は皆無ですし、また8選手が平均で5得点以上をマークしているという点も特徴的です。こうしてより多くの選手を使いながら彼らの出場時間を長くしすぎないようにしているのは、ポストシーズンを見据えてのことなのでしょうか?
層の厚さがあることは本当にチームの助けになっていますし、強みでもあります。それはチーム内でもよく話をすることです。他の多くのチームでは試合で7、8人を起用することも多いかと思いますが、私たちのチームではコートに立つ選手たちには可能な限り激しくプレーをしてもらいたいです。そして、それができるのはベンチの選手たちの能力にもすばらしいものがあるからです。私たちのベンチはリーグでベストだと思っています。先発の選手たちについてはまだ完全であるとは言えませんが、それは問題というわけではなく、私たちがまだチーム作りの過程にあるということです。
いずれにせよ、私たちの層の厚さは最大の武器の1つです。私たちは接戦の多くを制していますが、それは私たちが様々な選手を起用できる強みがあるからです。もしコートに立っている選手たちの調子がよければそのまま彼らを継続して起用します。はなから起用法などを決めて臨むのは好きではないですし、選手のローテーションなどは試合の流れや選手たちのプレーぶりを見つつ、それをもとに判断を下しています。