米記者による大谷翔平のMVPへの異論は正しいのか 「勝てないチーム」からの選出は“価値観”が変化した証
二刀流で異次元のパフォーマンスを見せた大谷。ゆえにMVPは必然であったが、一部では異論も上がっている。(C)Getty Images
エンゼルスの地元記者によるメジャーリーグのMVPの在り方を問う考察が小さくない話題となっている。
今季のアメリカン・リーグのMVPに大谷翔平が輝いたのは、周知の通りだ。21年シーズンにも戴冠を果たしていた29歳は、今年も全米野球記者協会(BBWAA)の記者30人の投票において1位票を独占。史上初となる2度目の満票選出の快挙をやってのけた。
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彼の個人成績だけをみれば、異論など上がりようがない。右肘側副靭帯損傷の大怪我に見舞われたシーズン終盤に故障離脱を余儀なくされたものの、投打で残した数字は圧巻の一語。打ってはア・リーグ最多の44本塁打をはじめ、打率.304、95打点、OPS1.066を記録。一方で投げても2年連続2桁勝利となる10勝(5敗)を挙げ、防御率3.14、167奪三振、WHIP1.06といずれもエース級のスタッツを残した。
近年のメジャーリーグでは、「Most Valuable Player」の“価値のある”という部分が検証されており、傑出したパフォーマンスを残した“個人”を評価する風潮が強まっている。ゆえに打撃・走塁・守備・投球を得点価値というスケールに落とし込み、すべての選手を一つの指標で比較する「WAR」が大きな焦点となっている。
この「WAR」(米データサイト『Baseball-Reference』より)も、今季の大谷は両リーグトップの10.0を記録。投票で2位となったコーリー・シーガーとは3.1差だ。この点を考慮しても二刀流スターに対する評価は揺るぎないものだったと言える。
ここで話を冒頭に戻す。話題となっているのは、米紙『Orange County Register』のジム・アレクサンダー記者によるMVPの価値を問う記事である。「勝利への貢献という考えを真剣に受け止めているのは、もしかしたら私しか残っていないのかもしれない」と皮肉交じりに訴える彼は、「ショウヘイは本当にふさわしいのか」と指摘。そして、エンゼルスの戦績をふまえ、こう論じてみせた。
「『価値』の定義は明らかに解釈を見直す余地がある。夏場に地区優勝争いに加わっていたエンゼルスだが、9月3日にオオタニが怪我で離脱した時点で首位から13ゲーム差、プレーオフ圏内からも12ゲーム差も離れていた」
実はMVPに価値を見出すうえで、チーム成績をふまえるべきだと論じる識者は少なくない。今年10月にはMLB公式ネットワーク局『MLB Network』の討論番組において、名物解説者のクリス・ルッソ氏が「私は絶対に彼をMVPにはしない。チーム(エンゼルス)は大きく負け越している。『最も価値のある選手(Most Valuable Player)』とは一番優れた選手という意味ではない。チームで『価値のある』選手という意味であるはずだ」と断じていた。