前代未聞だった日本vs中国の“全面対決” 中国の背中は見えたか? 卓球日本女子のリアルな現在地

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 しかしその伊藤も、準決勝では世界ランキング1位の孫穎莎に成すすべなく敗れた。孫の戦術は徹底していた。身長152センチでリーチが短い伊藤が、反応の速さで勝負するためにバック面に貼ったラバー、今大会でベスト8に入った選手の16枚のラバーのうちの唯一のラバーである「表ソフト」を狙ってきたのである。

 回転がよくかかる「裏ソフト」が主流の現代卓球において、回転がかかりにくい分だけ相手の回転に影響されにくい利点のあるラバーである。しかし欠点もある。ボールが直線的に飛び、相手のボールが低い場合には速いボールを入れるのが難しいのだ。それはかつて中国の主要武器だったが、その欠点を攻められて敗れて捨て去った歴史がある。

 準決勝で孫は33本のサービスを出したが、伊藤のフォア側に出したのは1本のみで、実に32本ものサービスを伊藤のバック側に出した。それも伊藤が得意とするチキータや逆チキータといった台上での変化技を使わせないように徹底的に長くだ。通常ならあり得ない配球である。

 中国の伊藤に対するこの戦術は徹底しており、準々決勝の王芸迪も同様だったが、伊藤はレシーブでの強打を減らして先に攻めさせ、高くなったボールを狙い打つ新境地を見せ、7連敗中だったこの難敵を下した。しかし、中国でも別格の孫には及ばなかった。

 今回ベスト8に入った4人の中国選手のうち、最年少が孫の24歳であるのに対して、その孫から1ゲームを奪った大藤が21歳、張本に至っては16歳である。それら以外の選手たちを見ても、23歳以下においては日本女子は中国と完全に互角であり、次世代には追い越すことが期待されるものの、現時点では力の差が歴然としているのが現実である。

 しかしこの世界には確実なことなどない。昨年のパリ五輪2024の代表を逃したときには引退も囁かれた伊藤が、これほど鮮やかに蘇るとは一体誰が想像し得ただろう。それを信じていたのは伊藤本人だけだったかもしれない。

 伊藤の復活に感化された選手たちによって、次世代を待たずして打倒中国が成ることを期待したい。

[文:伊藤条太]

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