「今の子供たちは生まれたときから自分で選ぶことに慣れている世代」仙台育英・須江航監督の言葉から考える「叱る指導」からの脱却に必要な要素とは

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 須江 仙台育英の場合は、練習にかなりの自由度があります。全員が同じようにやるメニューに加えて、個々の長所や短所と向き合うメニューを彼ら自身が選べる環境にしています。

 ただ、入学してすぐに自分に適したメニューを組み立てるのは難しいので、指導者と定期的に面談をして、「どういう方向に進めば、自分の良さが生きるか」を考える時間をしっかりと設けるようにしています。

 村中 自分で物事を決めていこうとすると、必然的に「やりたい」「欲しい」を基準にしますよね。そういった感情の基盤となっている脳の部位がドーパミンを放出する「報酬系回路」です。ドーパミンは期待や欲求という形で人に快感情をもたらし、行動を引き起こす働きをしていると考えられています。

 私はわかりやすく、この状態を「冒険モード」と呼んでいて、「自分で決めた」「自分でしている」という感覚を持ったうえで、ワクワクしながら試行錯誤している状態です。

――またスポーツの現場では「厳しく叱ることによって、選手のメンタルが鍛えられる」という考えを耳にします。

 村中 それは、あり得なくはないかもしれませんが、多くの場合でそうはならないでしょう。「苦痛神話(人は苦痛を与えられることで強くなる)を信じている。それを信じている人たちは、人間の成長を筋肉のように考えているのではないでしょうか。鍛えれば鍛えるほど、強くなっていく。この考えを私は「マッスルモデル」(筋肉モデル)と呼んでいます。言うまでもなく、人の心や思考は、物理的な筋肉とは異なるものです。

 指導者の皆さんに理解してほしいのは、多くの場合で人は「マッスルモデル」ではなく、「プラントモデル」(植物モデル)で育っていくということです。

――非常に興味深い考えですね。

 村中 土を耕して、水をあげて、芽が育ちやすい環境をつくることで、植物は生長していきます。でも環境をどれだけ整えても、芽が育つかはわかりませんよね。じっと我慢して、待つことが必要。「マッスルモデル」は短期的には結果が出るかもしれませんが、中長期的な成功を望むのであれば、「プラントモデル」の考えが必要であり、指導者には成長を待つ時間が求められます。

 「マッスルモデル」の注意すべき点は、短期的な成功経験を得ることで、指導する側の自己肯定感が増してしまうことです。それが叱ることで為された場合、叱る側のニーズをより満たし、それがエスカレートすることで、(叱る依存)につながることが考えられます。

脱・叱る指導 スポーツ現場から怒声をなくす

【参考文献】

脱・叱る指導 スポーツ現場から怒声をなくす

【著者】
大利実 (おおとし・みのる)


1977年生まれ。
横浜市港南区出身。
港南台高(現・横浜栄高)-成蹊大。
中学軟式野球や高校野球を中心に執筆活動を行っている。
著書に「高校野球激戦区―神奈川から頂点狙う監督たち」など多数。



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