「ゆとり世代」の社員教育 プロ野球の名指導者から学ぶ指導法
「若い子たちはこれと思ったらとことん突き詰める。納得しなければやらない」
医療機器メーカー・白寿生科学研究所の原浩之副社長と昨年限りでDeNAを現役引退し、船橋中央自動車学校と鎌ケ谷自動車学校の営業部長として働く林昌範の対談。元プロ野球選手のセカンドキャリア、企業が社員を採用する際の着眼点などで熱く語り合った。プロ野球の話題ではトラックマン(高性能弾道測定器)などビッグデータの導入で現場のコーチに今後求められる能力にも話題が及び、無類の野球好きの原副社長の豊富な知識に林が驚く場面も。対談は1時間半を超える盛り上がりぶりだった。
原 「今免許を取りに来る方たちはゆとり世代だと思います。感覚が多分違うと思うのですがいかがですか?」
林 「僕も今働いている教習所で免許を取りましたが、当時と学生の雰囲気は違いますね。当時はやんちゃな不良もいましたが、今は全然いなくておとなしいです。ただ指導員の話に反応しないことも多いように感じます」
原 「今は電話もしなくなっている。ラインや文書でやりとりしたり。フェイスブックもやっていなくてみんなインスタグラムを利用しているんですよね。最近若い方たちに人気のある芸人も話の中身が評価されているわけではない。林さんの世代でも理解できないぐらい変化していると思います」
林 「そうですね。ただ若い子の凄いところはこれと思ったらとことん突き詰める。例えば日本ハムの西川遥輝選手は身体能力も入団した時から高かったですが、考える力が凄くあった。自分がうまくなるための選択、努力をしっかりしていました。コーチに色々言われても西川はいい意味で自分を持っていてブレない。若い子と接する際は教える側も考えないといけない。今の子たちは納得しなければやらない。この子たちが納得できるように指導しなければいけないなって感じます」
原 「なるほど。指導者の言うことを聞かないからプロの世界で生き残ったわけじゃないんですよね。自分の特性を把握して伸びる能力があってそこにちゃんと指導者がいるから生き残ったんですね」
林 「はい。僕も巨人に入って2軍投手コーチの高橋一三さんに出会えたことが大きかったです。僕の投げ方は体が硬くて上から下に投げおろすだけ。球団から見ればドラフト7位で芽が出ればラッキーぐらいでした。色々な人から『体を柔らかく使いなさい。今の投げ方を続けるとケガする』とか言われるんです。でも高橋一三さんだけは違った。『今の投げ方でいい。腕が横振りはダメだよ。上から投げることだけを考えなさい』って。工藤公康さんも同じことを言ってくれてわかりやすかった。投手コーチの小谷正勝さんも面白かったです。『フォークが落ちないです。どうですか?』って聞きに行ったら、『一軍にいるのにどうですかもねえだろ。投手のイメージと打者のイメージは違うんだ』って突き放されて。でも2、3週間たってから呼ばれて『小僧、最近マウンドでの立ち振る舞いが悪い。もっと自信を持ちなさい』って。その一言でハッとさせられる。データではわからないような助言をもらえるんですよね」
原 「林さんもコーチとの出会いに巡り合えてプロで活躍できたんですね。将来コーチには興味あるんですか?」
林 「自分がプロで培った経験を伝えたい思いはありますね。日本ハムに移籍後は左肩を痛めてだましだましやっていた。だからではないですが、体のことに興味がある。今はトラックマン(高性能弾道測定器)も導入されている。これからの時代はデータを用いて指導する能力がコーチも求められると思います」
原 「日本の野球もビッグデータの時代がくると思います。大リーグでは球種別でカーブが被本塁打率が一番が低いということで、アストロズはカーブを使う投手を集中して獲得したりしていました。打った後に少し間をおいてデータを調べていたのが今はすぐに数字を見られる。解析力の力で伸びた選手もいます。体の動作というミクロの話から戦略のマクロな話までビッグデータが重視されている。DeNAは特に凄いですね。新しい部署を作ってビッグデータを分析して。球団経営を黒字にして知名度を上げるどころか会社のドメインを増やしていっている」
林 「DeNAはVR(バーチャルリアリティー)を一早く導入していました。試合前に選手が利用した感覚を情報収集していました。現場がデータを生かせるかが大事になってきますね。トラックマンは1年間で膨大なデータが出る。一例を出すとある選手がチェンジアップ、スライダーを投げてもデータでは同じ球種で出る。ただ打者から見ると実際の見え方が違う。同じチェンジアップも抜いてカウントを取る球と空振りを取る球は違う。投げる投手の感覚が違うんですよね。投げ方もこれがいいという動作解析のフォームがあっても、股関節が後傾しながら投げてそれがハマる投手もいる。データと感覚がうまく合わさればいいですよね」
原 「感覚は大事ですよね。例えば東北のバス会社に聞いたら、60歳代の運転手が優秀な傾向がデータにも表れている。30代の運転手は急発進、急ブレーキで客がバスの中で乗客が転ぶ事故が多い。60代は「バスが動き出すので席を立たないでください」と気配りができる。例えば65歳で定年退職になります。教習所で免許書き換えや返上する人に声を掛けて、『社会参画しませんか?』と声を掛けるのも面白いかもしれません。鎌ケ谷に教習所があって林さんも日本ハムに在籍していたので何かの縁だと思います。球場の中でお年寄りの方と体操するとか。林さんが呼びかければたくさんきますよ」
林 「ありがとうございます。日本ハムも教習所のパンフレットをすぐに鎌ケ谷に置いてくれましたし、協力して色々できたらと思います。今日はお話を聞かせて頂き、非常に勉強になりました。ありがとうございました」。
■編集部からのお知らせ
3月7日に発売の雑誌「CoCoKARAnext」では読売ジャイアンツ・菅野智之投手のインタビューの他、プロ野球選手に学ぶ仕事術などストレスフルな時期を乗り越える情報を掲載。
※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。
[文/構成:ココカラネクスト編集部 平尾類]
原 浩之(はら・ひろゆき)
1971年4月15日、東京都生まれの47歳。94年に慶大を卒業して銀行員を経て98年白寿生科学研究所入社。00年に同取締役、03年に営業本部長、15年から副社長に就任。都内・富ヶ谷にある同社本社敷地内の音楽ホール「Hakuju Hall」の支配人も務める。昨年6月に慶大大学院メディアデザイン研究科の特任准教授に就任した。
林 昌範(はやし・まさのり)
1983年9月19日、千葉県船橋市生まれの34歳。市立船橋高から01年ドラフト7巡目で巨人入団。06年に自身最多の62試合に登板と主に救援で活躍。08年オフにトレードで日本ハムへ移籍した。12年からDeNAに加入。昨オフに現役引退した。通算成績は421試合で22勝26敗22セーブ99ホールド、防御率3・49。186センチ、80キロ。左投左打。家族はフリーアナウンサーの京子夫人と1男1女。