阪神・高橋遥人、1軍白星までの1025日 「キャッチボールもぐちゃぐちゃ」だった左腕が歩んだ“前例のない復活ロード”【コラム】

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治療を繰り返す中で、己とも向き合い続けた高橋。決して楽ではなかったリハビリ生活で本人の考え方も少しずつ変化していった。(C)産経新聞社

“投手・高橋”にとっての「新たな引き出し」

 原因は明らかになったが、どうやって治すか。模索する中で「尺骨短縮術」という方法が見つかった。ただ、治療は簡単にはいかなかった。それは本人も「(左手首という)末端のボールを操る場所にメスを入れたら感覚が狂うリスクがあるし、触りづらい、と言われた。医者の方もあまり進んでやらないみたいで」と振り返る通りだ。

 同術を受けたプロの投手で復帰例が見当たらなかったのも、治療が簡単ではない理由でもあった。仮に手術がうまくいかなければ、もうマウンドに戻れなくなる可能性もゼロではない。そんな大きな分岐点を目の前にして高橋は「やらない後悔よりもやって後悔したい」と前へ進むことを決めた。

 昨年6月、高橋は痛めていた左肩手術と左手尺骨短縮術を同時に受けた。そこからリハビリを経て2軍での復帰マウンドに上がったのは今年4月のこと。以降は慎重にイニングを伸ばしながら登板を重ねてきた。

 その過程で、私は高橋の内面の変化を感じ取っていた。1軍で投げていた数年前は常に視線を上げて自己評価は厳しめ。「自分なんて全然ダメ」などとマイナス思考が言葉に出ていた。ただ、2軍で復帰登板を果たし、投球の中で徐々にできることが増えていっても今年の高橋から以前のような“マイナス発言”はほとんど聞かなかった。

「1軍で投げてた時は悪いところばかり見つけてとにかく上を目指すって感じで。今は自分を褒めて伸ばす感じ(笑)。直球がダメでも変化球で立て直したり。逃げですけどね。悪いとこばっかりなんで良いところを見つけて」

 今も左手には固いプレートが残ったまま。直球の球威や球速は好調時と比べれば、物足りない。以前の高橋ならそこに落胆し、内面の浮き沈みも激しかったはずだが、リハビリ登板では変化球に救いを求めた。直球がダメなら、ツーシームやスライダーに頼って投球を組み立てる。本人は「逃げ」と言うが、“投手・高橋”にとっては「新たな引き出し」に他ならなかった。

 1009日ぶりの登板となった広島戦でも、その引き出しが生きた。4回2死満塁のピンチでは石原貴規をスライダーで空振り三振。「今日一番良いボール」とうなずいたのは、2軍の試合で一番多く投げて精度が向上した球種だった。

「試合つくれるように、もう少し長いイニング投げられるように」。試合後、自分を許せるようになったという背番号29は、以前のたぎるような向上心を少しだけのぞかせた。この点についてはバッテリーを組んだ梅野隆太郎も「まっすぐはまだまだでしょう。でも、変化球を使って試合を作れた。これからもっと良くなっていく」と振り返っている。

 実に1025日ぶりに手にした白星は、完全復活の証明ではなく、その“第一歩”を記す1勝だ。





[取材・文:遠藤礼]

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