言葉で人を動かすオシム氏は「サッカー界のノムさん」
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サッカー元日本代表監督のイビチャ・オシム氏が5月1日に天国へ旅立った。80歳だった。
日本に「考えて走るサッカー」を伝え、ユーモアあふれる独特の言い回しが「オシム語録」として注目を集め、多くの選手や指導者を育てた。
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「ライオン、ウサギと肉離れ」に代表される例え話が特徴的で、サッカーの枠を超えて、ビジネスや人としての生き方も考えさせる言葉が、日本人の心に響いた。
体力自慢がそろうスポーツ界において、頭を使い、説得力のある言葉で人を動かせる稀有(けう)な存在だった。その姿は「野村語録」として多くの教訓を残したプロ野球の野村克也氏にも重なる。
人々の心のなかでいつまでも生き続けるであろう「オシム語録」をキーワード別に紹介したい。
◆ポリデント?
日本代表で新しいサッカー用語としてオシム氏が浸透させた「ポリバレント」。化学用語で「多価」という意味で、複数ポジションができるだけでなく、組み合わせを変えることで新たな化学反応を生み出せる選手、といった意味で使われていた。聞き慣れない言葉で、当時は入れ歯洗浄薬の「ポリデント」と勘違いする人が続出した。
◆準備
「ライオンに追われたウサギが逃げ出す時に、肉離れをしますか? 要は準備が足りない。私は現役のとき1度もしたことはない」
「負ける覚悟も含めて、すべてにおいて、完全な準備をしなければならない。準備に『やり過ぎ』などという言葉はない」
「奇跡といっても、自然に起きるわけではない。毎日起こるわけではない。奇跡を金で買うこともできない。入念に準備をした上でしか、奇跡は起きない」
「厳しい状況に追い込まれるほど、選手は問題を解決しようと努力し、発想が豊かになる。よって悪条件下では、メンタルフィットネスの準備がとても重要になる」
◆リスク
「『リスクを負わない者は勝利を手にすることができない』が私の原則論」
「カウンターを受けて、守れるチームはない。レアル・マドリードだって、4点取られる。サッカーは攻撃するときには、絶対にリスクを冒さなければいけない」
「リスクを冒して失敗したら、ほめる。そのかわり、同じ失敗は繰り返すなと言う。そうすると選手は成長する」
◆改革
「古い井戸には水が少し残っている。古い井戸を完全に捨てて新しい井戸を掘りますか? 古い井戸を使いながら新しい井戸を掘ればいい。チームを作るならば経験のある選手たちを中心にして作らねばならない」
「私には、理想とするサッカーはない。『こういうチーム』と決めてしまうとそれ以上のチームにはならないからだ。完璧と言えるチームはないと思っているし、起こりうる状況の中で常に前進して行くだけだ」
「アイデアが存在する間は常にアクティブになる必要がある。同じことを繰り返すようになると人間は終わりだ」
「相手をリスペクトするのが負けない秘訣だ」
◆人生
「サッカーの試合とは絶対に1人では成立しない。君たちの人生も同じじゃないか」
「サッカーは人生。人生で起こることは、サッカーでも起こりうる」
「練習でできなかったことがゲームでできるようになるはずがない。人生も同じ。日々の生活でのことが重要なときに必ず出てしまうもの」