F1の舞台で今季初勝利を挙げた、崖っぷち日本人ドライバーの「火事場のばか力」
F1スペインGPに併催された第6戦レース1の表彰台。中央が松下信治(F2提供)
逆にメーカーの後ろ盾を失えば、思い通りな活動ができなくなる。松下もGP2で優勝こそしたものの、ランク上位争いができず、1度はホンダの指示に従い、日本のレースに復帰した。18年のことだ。ホンダ系のチームでスーパーフォーミュラに初参戦したが、F1への思いを捨てきれず、わずか1年で海外に再シフト。GP2から名称変更されたF2の世界に舞い戻った。
モータースポーツの世界にはスーパーライセンスポイントなるF1ライセンスの発給資格に関する得点システムがあり、F2で年間ランク3位以内に入れば、資格を満たす。ところが松下は昨季2勝を挙げるもランク6位に沈んだ。ホンダの育成プログラムも弱肉強食の世界。おそらく、日本帰還を再び打診されたと思われる。
その際には自力で海外に残留する道を選択。オランダに本拠を置くMPモータースポーツ入りを果たした。今季のF2に参戦する松下の姿をレース映像で見た。ヘルメット、レーシングスーツ、マシンに昨季まで当たり前のように貼られていた「HONDA」や育成プログラムの「HFDP」のロゴがなかった。1月にホンダが発表した今年のモータースポーツ活動計画には、育成ドライバーのメンバーから彼の名が消えており、ホンダからはフルサポートを得られていないもようだ。
優勝後に自身のツイッターに「今年僕はここでレースが出来ているので、辛い状況だからといって諦めたら全ての人の想いが無になってしまう。それだけは絶対にしたくありませんでした」と思いの丈をつづり、「今日優勝しましたが、これを転機にしなければなりません。引き続き頑張ります」。勝ってかぶとの緒を締めた。
ランキングは12位。ホンダの育成組では後輩にあたる角田がランク4位と奮闘し、後塵(こうじん)を拝しているが、今後の奮闘次第ではチャンピオン争いに加わる可能性はある。10月で27歳。F1は若年化が進んでおり、今年がラストチャンスだ。
戦国武将の織田信長を理想像にするなど、周りに流されないストイックさを備えているのも持ち味の一つ。崖っぷちドライバーの「火事場のばか力」に大いに期待したい。
[文・写真/中日スポーツ・鶴田真也]
トーチュウF1エクスプレス(http://f1express.cnc.ne.jp/)
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