【小平奈緒×山田恵里】日常生活に生かせる“金メダリストの金言”。「モチベーションの上げ方」や「失敗からの立ち直り方」は?

タグ: , , , , , , , 2022/6/9

小平(右)、山田(左)ともに、「切り替え」が大事だと強調した。 (C)Getty Images

 日本女子スポーツ界を牽引する二人のスター。2018年の平昌五輪で日本女子スピードスケート史上初の金メダルを獲得した小平奈緒と、2008年の北京五輪と2021年の東京五輪で金メダルを獲得した山田恵里の豪華対談が実現した。世界の頂点を極めたアスリートたちは、その競技人生でいかなる価値観に触れ、どんな考え方を育んできたのか。計3回に渡ってお届けするインタビューの最終回は、「コンディショニング」と「モチベーション」について。日常生活にも大いに生かせる、金メダリストたちの“金言”に耳を傾けよう。

【動画】【小平奈緒×山田恵里金メダリスト対談】「モチベーションの上げ方」や「失敗からの立ち直り方」は?

――次は“カラダ”と“ココロ”についてうかがいます。そもそもお二人のように競技をここまで長く続けること自体が難しいと思いますが、コンディションを整える上で力を入れてきたことはありますか。

山田 20代後半から30代前半にかけて結構ケガが多くなってしまったので練習量を落としたんですけど、それは逆に良くなかったですね。その後はトレーニングの量を増やしても怪我をしなかったので、ある程度年齢を重ねて若い時と同じ量はできなかったとしても、落としすぎてはいけないと感じました。もともと自分はあんまりケアを受けるのが好きじゃなくて、身体が柔らかくなると体のバランスも少なからず崩れてしまうんです。だから、ケアを受ける頻度を少なくして、自分のいい感覚というかバランスを崩さないようにしたり、バッティングィング回数とかを同じ内容にして、自分の日々の体の変化に気づけるようにしています。

小平 私もあんまりケアが好きではないというか、ケアしてほぐされ過ぎると自分の感覚からかけ離れすぎちゃうんです。自分のいい状態に戻すまでに結構時間がかかっちゃうんですよね。ちょうどいい筋肉の張り感を保つようにするために、やっぱりセルフケアで自分の調子を整えることの方が多いです。トレーニング自体は若い時は結構がむしゃらにやった時期もあったし、その時期にしかできなかったことなので、今振り返ると『歯を食いしばってやって良かったな』って思う一方で、怪我を一回してしまうと体が怪我をした箇所をかばうように違うところを使う悪い癖がついてしまうので、やっぱりケガはなるべく避けたい。ストイックになって、ついついやり過ぎてしまうこともあるので、そういう時にはあのスケジュール帳に『休み』っていうトレーニングを入れるようにしています。

――「休み」というトレーニングメニューを入れるのは、一般社会人にも刺さる部分ですね。ついつい頑張って仕事をしてしまいがちですが、前に進むための質の高い休みは必要なもの。では逆に、メンタル的にスイッチが入りにくいときはどうしていますか?

山田 無理やりでも『よし、やるぞ』と自分を奮い立たせています。やっぱり練習しないと試合で結果が出ないのは分かっているので、体がしんどかったりとか、前の試合で結果が出なかった時とか、なかなか気持ちが入りづらかったりするんですけど、やらないと結果は出ないという経験しかしてきてないので。それを乗り越えれば、頑張ったから自信がつくというか。なので、どういう状況でもやるって感じです。小平さんどうですか?

小平 私もやります。とりあえず動き出してみるのは、スイッチを入れるのにすごい大事ですよね。体がだるくても、あとでいいやと思うんじゃなくて、とりあえず動けるウエアに着替える。私は自炊の料理もそうなんですけど、買い物に行って冷蔵庫に食材を入れるんじゃなくて、すぐにまな板を出して刻んでから冷蔵庫に入れるみたいな。とりあえず動き出してみるというのはすごく意識しています。

――長年に渡って競技やってこられた中で、目標設定やモチベーションの保ち方・上げ方についても考えてこられたかと思います。読者の方へのアドバイスをお願いできますか。

小平 小・中学校ぐらいまでだったら、憧れの人を見て、自分の未来を想像するのが一番手っ取り早いかなと思います。そうすると、自分がなりたい姿がイメージしやすいですよね。一方で高校生とか大学生になると、憧れていた人になれない可能性を薄々気づくところに至ると思うんですけど、その時に私は、『自分は他の誰かになりえない。だったら自分はこういう人間だと説明ができるようにしよう』と、初めて自分として未来を生きたいというビジョンを考えるようになりました。そこがおそらく一番難しい時期だとは思うんですが、その人になれないから夢を諦めるのではなく、自分がどういう人間でありたいかとか、周りとの関わりの中でこういう存在でいたいなというのを形成していくのが、大人の階段を登る時に必要なスキルなのかなと思います。

――お二人はある時期から、その世界でナンバーワンの存在になりました。いわば目指される側の人間になってからは、どういった目標設定をしていましたか?

小平 そういう立場になってからは、社会の中で自分はこういう風にありたいなとか、競技者としてはこうありたいなって考えていました。なんというか、あんまり人間力みたいな言葉が好きではなくて、誰かが決める枠にとらわれることなく、自分を受け入れたり、想像することが、一番心が豊かでいられると思うんです。ときどき失敗しちゃって、いろんな人に怒られたりしながらも、自分をちゃんと振り返って生きていくことが大事かなと。いろんな人との関わり合いの中で、目標って自然とできていくと思うので、あまり決めつけすぎずに、これやりたいって思ったら、そこに自分の心が向かうので、身を任せればいいのかなって思います。

山田 自分が子どものころは有名になりたいっていう漠然とした目標がありましたが、小・中学校とやっていた野球は、ただ好きでやっていたって感じでした。高校に入ってからは日本一を取るチームだったので、そこからは日本一になる目標ができて、高校2年生のときにシドニーオリンピックを目指すようになり、シドニーは銅メダルだったので、北京では金メダルを取りたいって思いでずっとやっていたので、モチベーションが下がることはなかった。

でも、そこからオリンピックにソフトボール競技がなくなったことと、金メダルを取ったことで、目標がなくなってしまって……自分は何のためにソフトボールをしているのかわからなくなってしまった時期が正直2年ぐらいあったんです。けど、そこで周りの人たちのありがたみをすごく感じて、周りの人たちのために頑張ろうという気持ちに変わった。そこからは誰かの目標になりたいって思いましたし、自分がソフトボールをすることによって、誰かを勇気づけたり、そういう風になれればいいなと。それが原動力になって、すっとやってきた感じですね。そこからはまた東京オリンピックがあったので金メダルという目標ができたんですが、そういうのがなかったときは、やっぱり誰かのためにっていう感じでもやってました。

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