プランが崩れ、ほぼぶっつけ本番で挑んだ異例の日韓戦 井上尚弥が“楽勝ムード”もあった一戦で見せつけた強者の駆け引き
![](https://cocokara-next.com/wp-content/uploads/2025/01/202501251310.jpg)
戦う中で相手を見極め、攻略していった井上。(C)Lemino/SECOND CAREER
なぎ倒した――。この表現も決して誇張ではない。それほど井上尚弥(大橋)は、急きょ決まった対戦相手を前に強かった。
1月24日、プロボクシング世界スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(大橋)は、東京・有明アリーナで行われたWBO世界同級11位のキム・イェジュン(韓国)戦で、4回2分25秒KO勝ち。プロキャリアの通算成績を29戦無敗とした。
【動画】井上尚弥、電光石火のKO劇! 韓国のキム・イェジュンを沈めた戦慄の右ストレート
結果・内容ともに井上の圧勝と呼べる展開だった。しかし、試合後に「試合で疲れたというよりも2か月いろいろあったし、中止、相手変更とか肉体ではなく、精神的に正直きつかった」と漏らした本人を含めた陣営には疲労の色が濃く見えた。
それもそのはずで、今回の興行はまさしく異例事態の中での開催だった。当初、昨年12月24日に対戦する予定だったWBO・IBF1位のサム・グッドマン(オーストラリア)が、練習中に左目上をカット。これで1か月延期となり、さらに今月11日に、再び挑戦者が左目を裂傷。手術を必要とする大怪我となったために試合はキャンセルに。元々リザーバーで準備していたキム・イェジュンが代役となった。
事態の複雑さは交渉役である大橋秀行会長の「本当に大変でした」との言葉からも滲み出る。百戦錬磨の御大ですら「携帯電話が鳴ると恐怖症になった」という今回のケースは未知の経験だった。再々延期の可能性も睨み、2月6日に有明アリーナを仮押さえしていたという事実からも王者側が、興行実現に相当に神経をすり減らしていたことは想像に難くない。
無論、スクランブル続きの状況でキム・イェジュンに対する分析が満足にできたわけではない。実際、試合3日前の会見で井上は「2度の中止(延期、対戦相手変更)があった。試合が1か月ずれたということで、もちろん練習スケジュールもすべて狂いました」と言及。グッドマン戦に向けたプランが崩れ、“ぶっつけ本番”という面は否めなかった。
それでも「いつもより被弾するパンチが多かったと思うんですけど、これは急きょ対戦相手が変わって対策不足ということもあり、リングの上で確認しようかなという思いからでした」という井上は3、4発のパンチを浴びるリスクを取りながら初回で相手の力量を見定めた。
そして、2ラウンド目からはジャブと上下に強いパンチを打ち分けて試合を支配。ここで「研究した時よりも、もっと速くて強かった」と言うキム・イェジュンの心は折れていたように思う。最終的に4ラウンド目で繰り出した強烈なワンツーでKO勝ちを収めるのだが、趨勢は心身ともに相手を上回った時点でモンスターの方に傾いていたと言えよう。